エレベーターは

十二階へと駆け上がる

表示燈が

左から右に動いていく

 

地下鉄を降りる時から

きな臭い匂いはしていたのだが

地下のパーラーで

スクランブルの朝食をとる

隣のテーブルで

たかだか二十数年を

復唱している奴がいる

臙脂のネクタイと

紺のスーツの

軌道人生

文句のある奴ぁ言ってみろ

と。

 

エレベーターの扉が

開くと

夢想ロープの切れる音がした

落下速度の方程式

鏡張りの向こうの部屋で

鉄面皮が二人

煙草を吸う

ぺんぺん草の目で

こちらを向く

 

現実直撃

大義名分が顔を出す

長い夢から覚める

           趣味は

           人生の目的は

           印象に残った事柄は

見合いやってるんじゃない

そう言えば

いつか あいつも

こんな目をしたっけ

大上段にへつらって欲しいのなら

そう命じればよかろうに

 

下心は皆同じだと

ぺんぺん草が見透かす

あられもなく

身を捩るだけのくせして

中間色の悲哀が

丸見えになる

 

エレベーターの降下

不要能力

俺の耳に

夢の殻の壊れる音が

響く

大脳皮質に負荷が重くのしかかる

夢に大義名分は成り立たぬ

夢に現実は育たぬ

夢に理想は投げ込めぬ

 

やっと ベッドから起き上がるみたいに

俺は

エレベーターを出た。

十月の夢
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