共生
do_pi_can   ド・ピーカン  どぴーかん  さて、これから  詩  小説  エッセイ  メールマガジン

いつからか

踵が硬くなり始め

そこがひび割れて,

ちょっと痛かったけど,放っておいたら

なんとまぁ,ひび割れたところから

緑色の芽が出てきた

抜こう抜こうと思いながら

まぁいいかと,そのままにしておいたら

そいつが,すくすくと育ってるんだ

自慢じゃないが,油足の水虫だぁ

ひどい環境だぜ

休みの日には,

靴下履かないように気を付けているが

仕事のある日にゃ,そうはいかない

水でちょいちょいと洗っただけの靴下履いて

一日中道路に突っ立ってるんだ

臭いぜ,これは

それでも,まぁ,何の芽だかは知らないが,

すくすく育つじゃないか

かわいい奴だよ

そのうちに靴下では隠せないくらいになって,

何となく,こいつの考えていることが

分かる気がしてきた

ジャズが好きなんだな

なんとなく

そんで,煙草が嫌いなんだ

酒は,ちょっとなら問題なし

飲みすぎると,次の日はグッタリ

で,煙草をやめて,酒をひかえたら

金が貯まってきたんで,

休みの日は遠出して,

山ん中のきれいな湖に連れて行ってやることにした

そこに浸してやると,ホント,喜ぶこと

こっちまで嬉しくなっちまう

しばらくは,ズボンの中に隠して

何とかなってたんだけど,

膝の裏まで伸びてきたんで,もう駄目だ

歩くために膝を曲げると,

奴が苦しがるんだ

俺は,歩けねぇ

だから,仕事もできねぇ

でもさ,ここは思案のしどころさ

奴と俺は,見世物になったのよ

広い通りに立って,

さぁて皆様,ごろうじろ

しばらくは珍しがってくれて,

活動写真なんかもやってきて,

まぁまぁの生活ができてたんだが,

この世の皆様の飽きるのの早い事

そのうち,誰も見向きもしねぇ

そうこうするうちに,奴は,

俺の肩を越すくらいに成長した

もう,どこにも隠すわけにいかねぇ

切るか,切るまいか迷ったろうって?

冗談じゃねぇ

俺のたった一人の話し相手だぜ

切れるわけねぇじゃねぇか

でも,さすがに困ったね

根元なんか,俺の足首よりも太くなってるし,

随分と重くなったので,

歩くのも大変になってきた

なんだか,どこかの有名な医者がやってきて

タダで切ってあげると言ってくれたが,

ごめんこうむると,はっきり断ったね

その時の奴の優しかったこと

いや,何となく,優しかったんだよ

そんな気がしたんだ

次に環境保護団体ってのがやってきて,

俺の事を褒めたてた

でも,こいつらは,褒めるだけだった

褒めてもらっても嬉しくもねぇから,

俺を湖の近くまで運んでくれよって言ったら,

自然愛好会なんて奴らが,トラックに乗っけてくれて

俺を今の場所まで運んでくれたのよ

奴の喜んだこと

そりゃあ喜んださ

はっきりと喜んだよ

だって,みるみる成長して,葉も付けて,

実も付けて,そいつが俺のまわりに落ちて

芽を出して,ほれ,

俺の体を養分にして,そこここで成長して

俺は,奴から養分をもらって,

まぁ,死なせてもらえねぇんだよ

あれから,何十年たったのかねぇ

まぁ,いいよ,

俺の写真を撮りたいんだろ

自然と共生してるってか?

たしかに,そうとも言える