しじまの帰り行く
do_pi_can   ド・ピーカン  どぴーかん  さて、これから  詩  小説  エッセイ  メールマガジン

家の間に間に沈む,うすら赤い月よ

発酵よ

若きオイディプスのため息よ

残光よ

名残のみとどめる冬の冷気よ

お前の移り香よ

 

一つの歴史となるか

二つ目の笑い話となるか

悲哀は,ただそれだけで

財布の中の

たった一枚の五円玉に似ている

お前は,それを

何度も,何度も

阪急電車の切符の販売機に通し

受け入れられぬ事に金銭的差別だと悪態をつく

いかにブルジョアジーが多いといえ,

それは,阪神電車でも同じこと

思い込みから出た想いが

どうどうと,めぐりめぐって,

いつしか,時が巡ったことにすら

気がつかない

 

季節の移り変わる痛みに耐えかねて

橋の上から投げた物は

焼き栗であったか

檸檬であったか

今となっては,定かでないが

裸のお前を毛布に包み

夜の浜辺で

その実像を解体する

夜光虫の輝きは

お前の愛の証であろうか

犬の溺死体が燻される

その横で

二人は,確かめ合ったはずだ

赤々と立ち消え行く炎に

蛍の青は寂しすぎた

 

漁師の女将が

手を打ち,踊る

 

気持ち塩辛くなりたいものよと願った魚醤よ

流転よ

机の上におきっぱなしの腐りかけたバナナよ

抑鬱よ

明日,浴槽に沈められる定めの冬の夏蜜柑よ

若い女の涙よ

 

早々に立ち去りたしと思えど,

凍てついた足の裏には血も通わぬから

西宮市の粗大ゴミ集積所の裏手の整備の悪い運動場の片隅の用具小屋のドッジボール箱の中で

お前にキスをしよう

お前の化粧がすべて剥げ落ちるまで

長い長いキスをしよう

お前の乳房と臀部をもみしだこう

お前の背中から頚椎の凹みに向けて,

際限の無い自慰を振りまこう

 

深夜の空気を振るわせる霊柩車よ

人の世の望みよ

誰も手を付けなくなり一人しわがれていく吉野家の牛丼よ

命,棒に振ることの喜びよ

永遠に目覚めることの無いワ・タ・シ

ワタシよ

 

喉の奥でクークーと鳴く事の

いっそ,晴れ晴れしさよ

変転よ

業よ

 

帰り行く先は

暗い