失せ物,容易に見つからず
do_pi_can   ド・ピーカン  どぴーかん  さて、これから  詩  小説  エッセイ  メールマガジン

『失せ物,容易に見つからず』と,書いてある。

はてさてと,わが身を振り返り,

ひっくり返しもし,

パタパタと,ポケットなんぞもはたいてみる

失せし物が,とんと思い出せぬ

 

思い出せぬから,失せし物だよ,

思い出しちまっちゃぁ失せ物とは言わないよ

と,友が言う

 

そう言われれば,そうだろうな

自ら失せちまって,どこに隠れ潜んでいるのやら

思い出して,探しに来てくれるのを待っているのだろうか

おいおい,それなら余計に思い出してやらねば

でないと,奴は,永久に隠れたままだぜ

 

では,その奴とは,何であるか

 

それを思い出せねぇから,始末に困ってるんだ

思い出しちまったら,失せ物とは言わねぇんだろ

容易に見つからずと言うからには,

少し真剣に探せば,見つかるって事だな。

 

少しだかどうだか,神様の意図は知らねぇが,

見つからねぇ事は,ねぇだろうって事だな。

 

曖昧模糊とした言い方をするなぁ

見つかるのか,見つからねぇのか

どっちなんだ,はっきりしろや

 

そんなこたぁ,神様にでも聞いてくれよ

 

神様に聞いた言葉が,これだろう

とにかく,このままじゃあ,困るんだよ

 

一体何に困るってんだい

日常に不自由でもあるのかい

 

いや,日常生活に不自由はないな

おまんまも食えてるし

 

だろう,だったら何も困らねぇじゃねぇか

どうでもいい事は忘れて,そいつが出てきた時に

あ,こりゃどうも,こんちは,ってやりゃぁいいのよ

 

そうだな,

いやいや,ちょっと待てよ

そいつが,もしだよ,もし,子供の頃に隠れんぼ遊びしてて,

隠れたまま誰にも見つけてもらえずに,ずーっと隠れどうしの奴だったらどうするね

 

神社の境内の縁の下あたりにか

 

そう,そいつは隠れたままで,ずーっと待ってるんだぜ

何十年も

 

飯も食わずにか

 

飯ぐらい時々出てきて食ってるだろうけど

 

そうだよな,飯くらいは,食ってるよな,ああよかった

 

でも,かわいそうだよ,見つけてもらえないんだから

いつ出てきていいのやら,わからない

 

あまり長く隠れすぎてると,

時代に取り残されちゃって,出てこなかった方が幸せだって事にも

なりかねねぇぜ

 

思い出そう

失せし奴

 

夕日の中に,ぽつんと一人取り残されて,隠れたまんまの奴

 

もしかして,そいつの夕日は,永遠に沈まないのかもしれない

 

おーいっ,ご飯だよーってやれば,出てくるのか

 

いちぬけたーっ

 

にぃぬけたーってやれば,出てくるのか

 

忘れた振りしてるだけだよーっ,

本当は,忘れてないよーっ

 

本当か

本当に忘れてないのか

本当は,覚えている振りをしているだけじゃあないのか

忘れてしまってたら寂しいから,あまりに寂しいから,

覚えている振りをしているだけなんじゃないか

 

ああ,それとも,本当は忘れてしまいたい事なのか

 

それとも,

かくれんぼう遊びした奴なんて,本当はいなくて,

そんな遊びをした名残だけが欲しかっただけだったりして

 

すべてが幻想だった,ってか

 

ああ,熱い情熱も,夢も,人生の目的って奴も

本当は,すべてが幻想だった

 

のかも,しれないな

 

あの頃の情熱,覚えてるか

 

忘れてない,と思う

 

どんな情熱だったっけ

 

言葉にはできない

 

だよな,言葉にできない情熱,たしかにあったはずだよな

 

あったよ,あった,と思う,けど,どんな

 

帰ろう

明日も,また,日常が続く

 

うん,今も,日常の中にいる

それを,守らねば

 

さよなら

 

さよなら,また,明日

 

そのように,友と別れた後で,やはり気になって

ふと,振り返る

お月様の光の中で,ちいさな影法師が

動いたような

 

おーい,出て来い