夢で会った男
do_pi_can   ド・ピーカン  どぴーかん  さて、これから  詩  小説  エッセイ  メールマガジン

一日の終わりに,一本の真っ直ぐな道の端に立っている

どこかに池でもあるのだろうか,水鳥が激しく鳴いている

残光の反対側で,かすかに星が揺れている

そのような風景だ

道の端に一本の木があって,

その下に,ドードーさんがいる

死人のような顔をして,じっとこちらを見ている

ドードーさん?

誰だそりゃ。

風景が生み出した,一つの表層概念とでも言おうか

あなたは,と声をかける

あなたは,ずっとそこに居るのですね

未来永劫,そこに立って,この世の変転を見とどけるのだ

いや,とドードーさんが言う。

それは,君がそう思うから,そうなるのだよ

私は,君が生み出した一つの幻でしかない

私は,考える

彼が幻なのか

いやいや,私が,彼の幻なのかもしれない

彼の思弁の地平に産み落とされた概念

彼が消えろと念じれば,私は消える

どうやら,彼も,その事を

つまり,私によって消されてしまうことを

非常に恐れているようだ

その証拠に,私の手の動き,足の運び,

口の様子を

わずかでも見落とすまいとしているではないか。

ともかく,私は,彼の横を通らねば

帰宅することができない

家に帰っても,口うるさい女房と

小賢しいガキどもが,居るだけなのだが,

そこに帰れと,体のうちから命令するDNA

確かに存在しているのだ

そうである以上,

帰らねばならない

理由など無い

どんなにグデングデンに酔っ払っても

帰っていたではないか,今まで

だから,この緊張状態を何とかしなければならない

彼を消すのは,まずい

なぜなら,思弁の世界に完全犯罪は成立しない

かならず,残像から足がつく

彼が,生きたと言う残像

私が,ここにいるという残像

彼も,たぶん,同じことを考えているはず

ならば,ここは一つ妥協案を持ちかけるに限る

それは,彼の思弁と私の思弁を,そっくり入れ替えること

つまり,お互いが,鏡を通ってきたように

互いに新しい自分を形作るのだ

それには,彼ものってきた

顔をほころばせて

我ながらいいアイデアだった,

小うるさい家族を彼に押し付けられる

で,私は,今,彼の家族と共にいる

彼の女房は,まさか亭主が入れ替わったなんぞと

思いもしない

だから,彼女の頭に生まれた想念を

ひたすら私にぶつけてくる

私の頭の中で,常に彼女の想念が響いている

それが,こちらの愛の姿なんだ,と

私は,もう一度,彼に会える日を待っている