歩行者天国の片隅で
駆け出しの若者の歌う「愛する君」の歌は
60%をとっくに振り切った湿度計でも
追いつけないくらいのスピードで
僕の背中に絡みつく
彼らの周りで揺れ動いているノースリーブの肩、肩、肩
「愛する君」の歌は
このところ茶系統の多い黒山の人出を通り越し、
ビルの谷間を這い上がり
光化学スモッグを突き抜けていく
ふと、気が付くと
「愛する君」は、僕の隣に居る
信号待ちの僕の横に立ち
思ったより大きく見える空を見上げている
歩道橋の上にも沢山の人
急ぎ足で行くでもなく
とにかく、あてだけはあるのだろう
ユラユラと動いている
信号が変わり
「愛する君」は、僕を追い越し
歩道橋を渡り切ると
振り返り、微笑む
「あはは、つらかった」と
手を広げて、僕を待つか
「愛する君」の歌は
JRに乗り込むまで僕について来て
「いつも僕が側にいるよ」と締めくくる
電車のドアが閉まる時