快晴の陸上競技場のトラックにて

耳触りの良い女の声で、今日も全国的に快晴ですと、

室外スピーカーが言葉を撒き散らす午後

ガソリンスタンドから出た所で、70才くらいの老人が道路を渡るのに出くわした

70割る401.75だから、

僕は通常の感覚にそれを掛けたくらいの気長さで渡り終えるのを待っていると、

けたたましいクラクションと共にベンツが間延びした時間を蹴散らしていった

ベンツもこの界隈では、おばさんの買い物車だが、

台数が増えれば、あんな乱暴なのも出てくるのだろうと、

快晴の高級住宅街の角を曲がる

 

それから30分後、僕は市の陸上競技場にいた

今日は下の娘も参加する市内小学校対抗の陸上競技会があるのだ

娘が100メートルリレーに参加するというので、

親ばかの僕は、ビデオとデジカメを携えて、

カメラマンの役を演じに来た

朝、娘はファイト満々の顔で出ていった

何であんなに張り切るのだろうと考えを巡らせて、

もしかして、彼女には言っていないが、この世に生を得られなかった

子供の分まで頑張っているんじゃないかと、あらぬ事を思ってしまう

娘が2人分やるんなら、それはそれで、いい事かもしれない

リレー1番走者の娘は、力を体中に充満させてスタートを待つ

女房が苦労してこさえたゼッケンが風にたなびく

あれは結局、パソコンのTシャツ転写用紙の力を借りてうまく行ったんだね

それまでに君の書き損じた何枚か

書く度にインクが滲むので気に食わないと全部没にしたが、

ヘタでも、滲んでても君の手書きの方がと言い出した時、

猛烈な勢いで娘の体が駆け抜ける

1人分でもなく、2人分でもなく、ましてや手書きだろうが

パソコン出力だろうが、全く頓着せずに、

10年の強靭な生命がトラックを流れて行った

 

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