防波堤の上で、先輩漁師に教えてもらいながら
魚網をうつ練習をしている少年がいる
その眼差しは真剣で、自分の人生をその魚網に賭ける事に
微塵の疑いも無い
海は、少年の背後で、穏やかに波打っている
いつか、少年が一人で舟で出て行く時に、
刃をむいて襲いかかるかもしれないその海も、
今は、優しく少年を見守っている
少年は、その海で節くれ立ち、立ち向かい、
生命を消費し、あるいは増やし、
しわがれ、朽ちていくのだろう
海は、朽ち果てたかつての少年を
やはり、優しく引きずり込むのだろう
自分の懐の深い所へ
そうだ、かつて、そんな日本もあったのだ
浜辺の焚き火のまわりで、
時が流れていく日本
カモメが舞う風に、花嫁も裾を乱す日本
赤い褌と、節くれ立った腕に
潮の吹き付ける日本
そんな日本をこれっぽっちも疑わない生活
僕が生まれる少し前の
そんな時代の