熱射する朝

アスファルトはもちろん

六甲山の山並みも、ヨットハーバーも

歩道橋も、イカリスーパーも、スーパーのトレードマークの

「錨」の横に捨てられている小犬達も

スペイン土産にもらったチョコレートに混入されていた

金髪は、昨夜の情熱の名残の陰毛だろうかという

くだらぬ僕の妄想も

全てが溶けてしまいそうな朝

きなりのシルクの日除け傘をさして

陽炎のように歩いてくるあなたは

ふと、すれ違う車をよけるようにして

電信柱の陰に身を隠して、そのまま

傘だけが風も無いのに飛ばされていく

 

僕は、人目もはばからず、電信柱に問い掛ける

「何故?」

何故、隠れるのですか

 

 

「怖かったから」

何が?

「・・・・・が」

 

 

あなたの声は、激しく流れる川の音に

かき消され、僕の手前で崩れ落ちる

 

そうか、あの年の夏は、とりわけ雨が多く

毎日のように、どこかの川が氾濫していた

 

 

あなたですよね?

「・・・・・・」

 

 

全てがかき消される

川の濁流に?

いや、時の流れに?

 

上宮川橋の角のフルーツパーラーの前で

最後のキスをしたよね

あの時、あなたのあそこは、店先の

ざくろのように真っ赤に割れていた筈だ

 

 

「あっては、ならない事でした」

僕は、あなたのあえぎ声を覚えている

「すべてを忘れてください」

四畳半の薄汚れた部屋で

あなたと抱き合った

あなたは、降りしきる雨を見ながら煙草に火をつけた

「どうして、そんな作り話を」

 

 

濁流に飲み込まれて行った僕の時間は

全てが作り話だったのか

 

次の瞬間

あなたはどこかの見も知らぬ女の顔で姿を現す

僕は、慌ててポストにしがみ付く

全てが熱い、そして赤い

 

 

 

 

 

do_pi_can   ド・ピーカン  どぴーかん  さて、これから  詩  小説  エッセイ  メールマガジン