まったく、地下鉄って奴は
人の感情の風穴を遠慮会釈もなく押し広げ
無頓着に突き進む
アスファルトの輻射熱が解き放たれる頃
電光煌きはじめた漁礁から
足引き摺り這い出したイワシのアギト達
夢遊病者よろしく
山へ海へと帰っていく
中也の時代ならばサーカス小屋で
あんぐり開けた口を
今は、生き肝抜かれぬよう
しっかり閉じた
さて、閉じたはいいが
そこを地下鉄って奴は押し通る
おかげで毎夜、何万もが
帰れぬ人となり
帳をおろした自称会員制クラブで
奇声をあげるや
しじまの向こうの居酒屋に
目をうつろわすや
あの舞い上がる鉄錆が
たまに、白粉っぽく香るのは
そんな事情があるからなんだよ