「ヰタセクスアリス」




この傷は
あなたのせいよと,
いきなり指先見せられて
とまどうのだが
記憶にございませんとも
言い捨てがたい思い
古びた寺の
御堂から出てきたその少女は
狐か
お前の化身か
確かに
その指先の爪が
パックリと割れている
きゃしゃな指の向こうに
今時珍しい
袖に継の当たった赤いネルのジャンパー
街中の
寺の境内の
以外に多い人通りの真中で
日があたったここだけが
別世界に思えるのは
少女の執拗に真剣な
眼差しのせいだろうか
どこかで会ったことも
あるかもしれない
その時に,
少女の爪をどうにかしたのかもしれない
素直に謝りかけると
謝らないでと,
泣き始める
俯いた向こう側に
お面屋の屋台が見える
じゃあどうしたらいいんだろう
何か買ってあげようか
あなたは
いつもそうやって
ごまかしてばかり
おいおい,
まるで女房のセリフだよ
ごまかしがつまっちまって
そんなちんちくりんな図体になったのよ
いつしか少女は
絣の着物を着たお前になっている
着物の裾が風ではだけて
ちらと見えるふくらはぎに
欲情する
そのまま
この先の居酒屋にでも
しけこみたい
昼間から
欲情を抱いて
浅漬けのきうりで酒を飲むのも
よかろう
それが,あなたのごまかしなのよ
ふたたび少女の姿にもどったお前は
自転車の野菜売りの隣をすり抜けて
でこぼこの石畳の路地に
消えていく
俺は
あの割れた爪を
どうしたらいいんだろう
ふと見ると
季節はずれのほうずき屋
一かご萎れたのを
買って帰ることにした

do_pi_can   ド・ピーカン  どぴーかん  さて、これから  詩  小説  エッセイ  メールマガジン