「それを片思いと言うか」




走り去るのだと,
それは言った。

足など
無いではないか。

足など,無くていい。
思いさえあれば
走ることが,できるはずだ。
まずは,走ること

そして,去る事,か。
そのように擬人的な行動様式が望みか

様式など問うものではない
結果だよ。
それを,誰が,どのように表現しようと
こちらの知った事ではない。
今は,ただ見るだけだ
このビルの垣根の向こうにあるもの
白い川
そこを流れるちっぽけな色とりどりの箱
緑なす山
そこから毎週末やってくる娘
俺の幾つもの目は
地上すれすれで
その娘を捉える
そして,もっとも高い部分で
その娘が
肩抱かれながら帰っていく箱を見る。
それを
どうする事もできないでいる。
それから一週間,
再び娘がやってくるのを
待ちわびるのだ
俺の
一番高いところに位置した目が
娘の去っていった方向を見る
胸かきむしられる思いだ。
俺だから
耐えていられるのだ
耐える事に最も長けた
俺のみに
神が与えたもうた歓喜
その代償が
この苦しみ
そのどちらもが
俺にのみ与えられた特権ならば,
俺が
走り去る事も
神は認めてくれよう
例えそれが
第三者的に見て
擬人的な行為であったとしても。
ほれ,
こうして,
おお,
まずは,ここまで
それから,
こうだ。
簡単な事だ
はっはっ,
簡単な事ではないか。
どうだ,見ろ。

そう言いながら
振り返った奴は
見事に倒れ伏す
ビルの谷間を崩れ落ちる
へしゃげた時に潰れた
大量の肉汁を振り撒きながら
声にならぬ声を聴く
狂喜か
驚愕か

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