「下町慕情」






空が高くなってくると
地面に張り付いた己の姿が
よりリアルに感じられる

まだまだ,夢の中だと思っていた俺を
目覚めさせた一撃は
ウコンの苦さだった
せっかくの酔いを
台無しにし,
街のネオンサインを
色あせたものにした

夢の中でこそ
言葉が喋れる
夢から覚めたところで
言葉は骨格を無くし,
まるで体をなさない

お前は
俺の首に腕を回し
夢の続きを見せようとする
俺は
ようやくその生暖かいあたりで
自分を保つ
春先のチェリーの花の香漂う
下町の
ここは
どうやら路地の裏手か

そう言えば,
昔,この辺りで
風の行方を読んだ奴がいたな
ああ,
その言葉も,
お前には意味をなさないか
捨て去られて久しい線路の上を
黒マントの男が
夕闇に溶けながら
走り去る
その横手から
老婆が
タオルを首に巻き,
風呂桶持って現れる

路地裏の電燈が
チラホラ点滅する辺りに
花の香は集まるのだ

すれ違う人々が
皆,墨絵に変わりはじめると
線路の上を
二十年ぶりに電車が
走り去る
所々,物理的に途切れたその線に
乗るのは誰
君か
その電車は
板張りのパチンコ屋の
景品交換所の片隅に
吸い込まれるように消えていく
終電が行った後
居酒屋から這いずり出る俺の片割れ
街には
もう灯りも無く
路地裏の暗闇に
飲み込まれる

それにしても
ラヂオから流れる歌声,
変に脳天気で
明るい
許せない

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