「バーン アウト」
早朝の街にいらついたのだ。
かつて,強い炎で焼き尽くされた土地の上に積み上げられた街の
風景の柔らかさに,
何故,そのように安らかでいられるのだと,
それが本当の街の姿なのかと。
オレが訪ねてきたのは,こんな安らいだ顔の街じゃない,
もっと,怒りあらわな顔だ,
方々で,人体のメラメラと燃え上がり,
理不尽な悲しみが,角々に充満する街の顔だ。
それが,今のオレにふさわしいと思ったのだ。
そのような顔こそが,
先の見えない苛立ちを鎮めてくれると思った。
ところが,
街は,他の街とは何ら変わらぬ
安らかな人々の生活を湛えて,
オレの苛立ちなどには頓着もせず,
新しい一日の始まりを待ち受けている。
橋の上にも,
四つ角にも,
駅前のロータリーにも,
平和しか見受けられない。
何故,平和なのだ,
あんな事があったのに,
何故,平和でいられるのだ。
これは,嘘だと思った。
嘘に違いない,
街は,嘘をつき続けている。
本当の街の顔は,ここには無い。
オレの苛立ちを鎮めてくれる街の顔,
どこだ,どこなんだ。
骨組みだけの建物や,
高熱の痕跡が残る壁,
嘘をついている。
唯一期待のできそうな資料館は,
まだ開いていない。
さまようオレの前に,
その折鶴があった。
全国から集められた大量の紙の束。
この地で消滅した魂を鎮めるために
吊り下げられた鶴,鶴,鶴。
街の本当の顔は,その中に押し込められているのか。
じっと見つめていると,
少女が一人,近寄ってきて
「燃やしていいのよ」と,言ってくれた。
何故?
「あなたは,燃やしたいのでしょ? あなたのために。
それで,あなたの心が安まるのなら,燃やしていいの。」
この中に,オレの探している本当の街の姿があるんだろうか?
「それは,あなたが自分で確かめる事でしょ。」
オレは,火を点けた。
激しく燃え上がる折鶴の山。
しかし,所詮,それは紙の山だった。
燃え上がるにつれ,オレはしらけていった。
ここにも,オレを鎮めてくれるものは無い。
つまらぬ事をしてしまったと,軽い自己嫌悪を感じた。
その自己嫌悪が,オレを鎮めてくれた。
「どう?」と,少女。
どう?って,別に。
「街は,あなたを許してくれるわ,たぶん。」
許してくれる?
何を?
オレは,許されねばならない事をしたのか?
首をかしげるオレに
少女の姿は,既に無く,
黒い煙の向こうに,刺すような太陽光線。
その日の,オレの,始まりだった。