「デッサン」



 

走ろうと思いながら,

ベランダに引っ張り出した古びた椅子に座っている

息子は,相変わらずテレビゲームに熱中し

妻と娘は,買い物に出かけた

風が吹いている

雲はかすかに動いているらしい

太陽光線が淡く山を照らす

どこからか,郵便配達夫の声

訪ねた先の住人が,なかなか出て来てくれないらしい

電報を渡せずに立ち尽くす

走ろうと思う

川沿いの桜道を,浜辺を,ヨットハーバーを,坂道を,

走る

そう思いながらベランダに引っ張り出した古びた椅子に座っている

向いの県営住宅の窓から

老婆がこちらを見ている

老婆は,歩けなくなって久しい

だから,いつも窓からこちらを見ている

どうやら老婆は人生を投影しようとしているのだ

その横の階段に郵便配達夫が立ち尽くす

彼のくぐもった声が風に流れてくる

そんな生活が続いている

だから,走ろうと思う

 

 

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