「風」



 

風は雲に夏をはらませ

日曜の午後のビルの間を通り抜け

僕の横に立ち止まる

あるいはカーテンを揺らしたり,

向いの女子高生の洗濯物をはためかせる

その心地よさを

目を閉じて受け止める

鳥のさえずりにさえも五官が震える,

が,そこに,

大地を圧しながら向ってくる

ヘリコプターの爆音

瞬間,

現実の虚像がはぎ取られる

風が本当に運び来るもの

市場に群がる人々の足音

空を切り裂く金属音

破壊された建物の崩れる音

そこから物を盗み出す音

母の涙の落ちる音

最後のか細い吐息

新たに生れる歓喜

身体を動かせぬ者の嘆き

子供の歓声

泣き喚く声,

怒鳴り散らす声

説き伏せる声,

囁き合う声

張り付いた情念

しがみつく妄想

狂い始める感性

そこに上塗りされる

車のタイヤが地面をすり減らす音

自転車のブレーキ

サッシの鍵を開ける音

シーツのこすれ合う音

引出しから下着を取り出す音

 

目を開けると

夏をはらんだ雲の群れが流れていく

 

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