「祭りの夜の団扇の想い」
浴衣の彼女のか細い首に光るネックレスはゴールド
白い胸元にアゲハ蝶
しおらしく着こなせない彼女の
色気らしきものが乱反射している金魚掬いの水槽には,
小型発電機からのテラリとした灯りが映り込み,
絵の具塗りたくられた愛玩魚達の薄ら寒い救難信号を
水中に押し込めてしまう。
― この娘に届いたところで,何を期待できるだろう
たこ焼きに塗りたくられたソースとマヨネーズが
淡い恋心を厄介なカラオケソングに代えてしまい,
この世は,すべて自分の愛を中心に動いていると
信じ込んでしまっている彼女。
カラフルな爪が,丸い障子紙を閃かせ,
閃かせた光が,魚達を幻惑へと誘う。
幻惑はショッキングピンクの現実と重なりあう。
彼女にとっての現実は,甘ったるい飴に覆われた一個の果実だ。
彼女は,それを青く塗った唇でかじり,隣の男に手渡す。
男の喉仏のあたりから,欲情が立ち昇っている。
それが,小型発電機の灯りでテラテラと光っているのを
知ってか,知らずにか,
橋の袂で配られていたエステサロンの宣伝付き団扇で
ついと,胸元を隠し,
昼からの人いきれで,もうとうに
生きる気力を失っちまった黒い出目金に狙いを定める。
浴衣の彼女のか細い首に光るネックレスはゴールド
白い胸元にアゲハ蝶
終電車の箱の中,
化粧の禿げた彼女の右手首のイルミネーションリングの輝きは褪せ,
ビニール袋の出目金は,とうにひっくり返っている。
彼女,
男の肩にもたれかかって,
蛹に還って行く
夢を見る。
携帯は鳴りっ放し。
アンテナが光っている。