「そして,沈黙が事件になる」
いわゆるポンと膨れ上がったお腹をしげしげと見つめ,
これが中年の証しなんだと,へんに納得する午前九時,
>お前は,誰だ,誰なんだ
電車が真っ直ぐにあなたの瞳に這い登る頃,
飛行機は,等身大に傾き,
ビルの向こうに縮小しながら沈んでいく
>何処に行こうとしているのか
あなたの瞳は書割のトンネルだな
跳んでるんだ,つまり,
そう言うことなんだよ,湿ったおかきの崩落直前に跳ぶ
>何を指向し,思考し,嗜好し,試行し,施工するのかと聞き,
そして,あなたは,偽の瞳で僕を見るのだろう
崩れていく太陽光線の中,屑入れに行く父の背中,
糞まみれの青春だと,自嘲する実直な次郎長よろしく,恐ろしく,
>タベルナで食べない,何も食べない,長い夏に食欲が色あせるか
つまり,あなたは,僕が「好き」と言うまで,その瞳を続けるんだ
汗が,どっと噴出し,沈黙を表す点線だらけの吹出しが,
祭りの浴衣と一緒に,引き出しに仕舞い込まれ,
>それが,空ってものよと,あなたが言う
それで,僕は,ひたすら新聞を破る事を止められないでいる
だから,午前十時というおかしな時間に
新聞配達が呼び鈴鳴らして,数を数えるのだ
>ビルの谷間に子猫の鳴き声
そして,沈黙が事件になる