「梅雨の晴れ間に」
ベランダの僕の足元には
音の鳴らない小さなスピーカーが転がっていて
一昨日まで竹薮だった斜面を名残惜しそうに見ている
− 増えすぎた人間が,生きるためには仕方が無いか
斜面には小さな洞穴なんかがあって
戦争中に行方不明になった人の骨が埋まってるんだと
いつか探検に行った娘が
目を輝かせて話してくれた
− そこに,新しい家が建つんだね
家には,新しい家族が住んで,新しい命も生まれ,
古い命がしぼんでいったりするんだろうか
子供達の空想が勝手に埋めてしまった白骨は
そんな命の流れを,床の下から,無表情に見上げるんだろう
空には,梅雨前線が送り込んできた
群生する雲,雲,雲
その隙間を縫って飛行機が飛んでゆく
僕の右手の人差し指の中ほどに,皮がめくれているのを発見する
このところ湿気が多くて,水虫にでもなっちまったか
− その指で,都市に林立するビルの影を指す
すずめが,視界を斜めに切り裂く