「残暑お見舞い申し上げます」
縁側に大き目の洗面器を持ち出して,水を張り,
氷をいくつか浮かべて,足を浸し,
団扇等を使いながら,
ホーッと遠くの山を眺め,
蝉の声に耳傾けたり,
短編小説を読んだり,
空を見上げて,雲の行方に初秋の色を探したり。
蛙の合唱も始まって,
風が少し出てきたので,
軒先に明珍風鈴をつるして,
甲冑師 明珍家52代目頭首 宗理の鍛えた
黒い火箸の奏でる鄙びた音色を聞きながら
心を思い切り休日にして目を閉じると,
うん,播州の夕暮れが見えてくる。
まだ青い稲穂のそよぐ中に,古い石造りの鳥居が立っている。
民俗学者の柳田國男も,かつて,鳥打帽目深にかぶって眺めた鳥居だ。
それ以前は,播州侍達が,大太刀担いでくぐったかも知れぬ。
その下に,白い日傘のあなたがいる。
あなたは,残光に包まれて,
山の風景に溶けてゆく。
白い日傘だけが,あなたの肌のように浮いている。
そこに書き記した夏の言葉の数々も
静かなまどろみの中に消えていく。
残暑お見舞い申し上げます。