「大晦日」

 

 

大晦日です。

大晦日から元旦にかけて,何がどう変わるのかは分かりませんが,

とにかく大晦日で,日本中がそういう気分になる日ですね。

 

子供の頃は,大晦日が嫌いだった。

大晦日だからといって,何がどう変わるのか,全然理解できなかった。

それでも,サンタクロースを信じるみたいに,大晦日というものを信じていた頃もあった。

例えば,一年のうちで,その日だけは何か大きな歯車がグリっと一回りするとか,

夜空を大きな枠のようなものが横切るとか,そんな事を想像した事もあった。

でも,よくよく考えれば,そのような事のあるはずも無く,

大晦日の呪縛から解き放たれた私は,結局,けじめのつけられない男となった,ようだ。

 

明けて元旦。

大晦日の緊張感は何処へやら,町中が丸一日ポカーンと昼寝してるような,そんな時間の只中へ。

今は,元旦から開いている店も多いが,昔は,本当に,一軒たりとも開いていなかった。

友達も,親類縁者が来ているとの事で,遊びにも行けず,正月くらい家にいろと言われ,

テレビをつけても,面白い番組をやっているわけも無い。

本当に,いつの時代になっても,元旦番組は,企画も何も無い,どうしょうも無い

おためごかしな番組ばかりで構成されている。

仕方なく,みかんを食べながら,掘りコタツに体を突っ込んで本を読んでいると,

頭がガンガンと痛くなってくる。

練炭の火で暖をとっていたので,軽い一酸化炭素中毒にかかったのだが,

それを風邪だといわれ,余計に遊びにも行かせてもらえず,

本当に退屈な三ガ日となる。

 

たまに,ポカーンとした空間を見つけることがある。

それは,いびつに交差した四つ角であったり,ビルの谷間から見上げる歪んだ空であったりする。

本来は,動きを持ったそのような空間に,何一つ動くものが見出せないような時,元旦と同じ感じがする。

まるで一年中元旦のような空間だ。

そんな空間を見つけると,元旦の日々を思い出し,たまらなく嫌な気分になる。

 

記憶の中に一度だけ,素晴らしい大晦日があった。

町の剣道クラブに通っていた頃なので,小学校の五年生くらいだったか。

その頃は,雪も沢山降った。二メートル近く積もることもあった。

そんな雪の大晦日だった。

前日に積もった雪は,日中暖められ,一旦は溶けかかるが,夜間に急激に冷やされ,

ザラメ状態となる。

町全体がザラメに覆われ,キラキラかがやく。

おりしも,その大晦日の夜は,きれいな満月だった。

月の光が,ザラメ雪に反射して,町中に飛び跳ねていた。

私は,たまらず竹刀を持ち出し,飛び跳ねる光の中で,素振りを始めた。

おお,何というか,赤胴鈴之介にでもなった気分。

朝まで,素振りをしていたい気分でした。

 

あんな爽快な大晦日は,後にも先にも,無い。

 

では皆様,よき大晦日をお過ごしください。

 

2003.12.31