「ディンゴ」
オーストラリアの片田舎の小さな町に,ある日,ジェット機が降りてくる。
物語は,そこから始まる。
高い空からいきなり降りてくるジェット機。
やっぱりオーストラリア原住民の信仰で,そんなのがあったな。
たしか,ヤコペッティの「世界残酷物語」に紹介されていた。
いつか空から乗り物が降りてきて,自分達を救ってくれるという信仰があって,
ところが,空から降りてきて,自分達を助けてくれる筈の乗り物は,自分達を迫害する
白人たちの使いなのだ。
そこで,彼らは,飛行機と同じ模型を作り,丘の上におき,飛行機が自分たちのところに
降りてきて,味方してくれる日をじっと座って待っている。
なんとも,物悲しくも神秘的な映像だった。
しかし,あれは,ヤコペッティのやらせだった。
彼は,ドキュメンタリーなんか撮る気なくて,悲惨美を追い求めていただけだったとか。
やらせでも,才能のある奴が撮ったら,なんとも素晴らしい映像になる。
ジェット機が,いきなり町に降りてくるというイマージュは,
願ってもかなわぬもの,手を伸ばしても届かぬ物の比喩だろうか。
そのジェット機には,マイルス・デイビスが乗っていた。
いや,マイルス演じるジャズ・トランペッターのビリー・クロスが乗っていた。
エンジントラブルで,その町の小さな空港に緊急着陸したのだ。
いきなり演奏を始めるビリー・クロス。
それを垣間見る少年。
記憶では,ジェット機の横腹が開いて,ステージに早変わり,そこで演奏が始まるのだが,
いかに映画とはいえ,そんなリアリティーのない演劇的な展開は無いだろうから,
多分,タラップから降りてきたマイルス・デイビスが,いきなりびっくりさせたので,お詫びに一曲やりましょうてな事で演奏を始める。そんな展開だったと思う。
そのシチュエーションと,演奏のかっこいい事。
以来,少年はトランペットに夢中になる。
いつか,マイルスと共演する事を夢見て。
少年は,大人になっても,家畜を荒らすディンゴ狩を仕事としながらトランペットを吹き,
テープに録音しては,マイルスに送り続ける。
町の人々は,そんな彼を馬鹿にするが,彼は,夢を捨てなかった。
マイルスの秘書は,気を利かせたつもりで,彼から来たデモテープを全て廃棄していたのだが,
偶然,一つがマイルスの手に渡り,その演奏に感動し,彼をパリに呼び寄せる。
そして,2人のセッションが実現する。
と,まぁ,ハッピーエンドの,夢物語なのだが,
ストーリー的には,たいした事ないのだが,とにかく,マイルス・デイビスがかっこいい。
主人公がマイルスの元を訪れた時には,既にマイルスは老境に入っており,もうステージには立たないという。
彼を,自分のスタジオ − そこには,キーボードとアンプ,コンピューターが
並べられていた − に招き入れたマイルスは,彼をマイクの前にトランペットを持って立たせ,
“ Give me C.“ と言う。
Cの音をくれ。
彼がCを吹くと,それがコンピューターに取り込まれ,キーボードで,思い通りの音階に
変化する。
“これが,今の私の音楽だよ”
と,寂しそうに呟く。
そんなマイルスをステージに立たせることになったのは,彼の熱意の故。
失意の中でライブハウスに赴き,ステージの上で即興演奏する彼。
それを,ハウスの入り口に立って見ていたマイルスが,いきなりステージに上がり,
トランペットを取り……..
すごい予定調和じゃねぇーか,と思うのだが,相手がマイルス・デイビスなら許してしまう。
許すどころか,観ているこちらは,感極まって涙まで浮かべる。
JAZZ好きの方なら必見ですね。
JAZZ好きの映画ならば,クリント・イーストウッド監督の「バード」もある。
チャーリー・パーカーを描いた映画で,主人公のフォレスト・ウィテカーがいい演技をしていた。
チャーリー・パーカーは,JAZZを好きでない方でも,一度は,その名を聞いた事があるでしょう。
ほら,あの「高校教師」の主題歌の森田童子の「僕達の失敗」というタイトルの歌の中に。
“ 君がいなくなった部屋にチャーリー・パーカーを見つけたよ
“ というフレーズが出てくる。
森田童子は,私の青春時代の熱い思い出の中に位置する70年代のシンガー・ソング・ライターです。
あれ,森田童子の話でしたっけ ?
まぁ,いいや。
森田童子の別の歌の,
“ いつか,この街,捨てる時,君は,笑って出て行けるかい? “ なんてフレーズは,今でも胸が熱くなる。
“ 今夜は,久しぶりに,君とロック・ハドソンの「ジャイアンツ」でもしみじみ観たい気持ちだね “
なんてね,そんな中年泣かせのフレーズが,ボロボロ出てくるのが,森田童子の歌ですね。
そんなフレーズを舌足らずな,か細い声で歌い上げる。
「ジャイアンツ」には,あのジェームス・ディーンやエリザベス・テイラーも出てて,
素晴らしい映画でした。
ジェームス・ディーンと言えば……….
おっと,どこまで話が転がっていくかわからなくなって来たので,本日は,これくらいにさせていただきます。
では。
2003.12.26