ヴィンセント・ヴァン・ゴッホ
黒沢明の「夢」に描かれたゴッホは,
とにかくパワフルに絵を描き続ける。
「君は,何をボーッとしているのだ。」
と言う。
「自然は,良く見ると,どれも,皆,素晴らしい。
この素晴らしい自然を何故,描きとめようとしないのだ。」
「時間が無い。とにかく時間が無い。」
そう言って,次の題材を探すために,足早に立ち去る。
おそらく実際のゴッホも,そうだったのだろうと思う。
自分が為すべき事に忠実にのめり込んで行く。
その為に,まわりが見えなくなる。
彼が伝道師の卵として活動していた半年間,
貧しい炭鉱夫のために,自らのシャツを脱いで与えたと言う。
その活動があまりに他の伝道師に比べて過激すぎたので,
結局,伝道師委員会からは,認められなかった。
遠藤周作の「沈黙」に感銘を受けたばかりだった僕は,
このゴッホの逸話が随分と気に入った。
それ以来のゴッホ・フアンだ。
彼が生きている間に売れた絵は,ただ一枚だけ。
今や,ゴッホの名を知らない人はいないくらいなのに。
ともあれ,その情熱とパワーは,敬服に値する。
そう言えば,ドストエフスキーも,
あの「カラマゾフの兄弟」をわずか一週間ほどで書き上げたのだとか。
並みの集中力と体力では,まず不可能だ。
読むのでさえ,その倍以上の日数が必要なのに。