「貝塚に住む −その3−」
貝塚と言えば泉州。泉州といえばだんじりである。
岸和田のだんじりがあまりに有名なので,だんじりは,岸和田独特と思われがちだが
とんでもない。
だんじりには,海手のと,山手のがある。
全国的に有名なのは,岸和田の海手のだんじりだ。
最後に岸和田城跡にある神社に奉納される。
岸和田城下の幅の広い道を転がすため,だんじりも大きめに作られる。
安定性が高く,スピードも出やすく,動きも激しい。
一番の見せ場は,カーブを猛スピードで突っ込んで,ぶつかる寸前をかわして曲がりきる所で,
何十人もの瞬時の共同作業のなせる技。
ここで,タイミングを逸して,転倒したりし,不幸な時には,亡くなったりする。
対して,山手のだんじりは,狭い道が多いので小振りに創られており,海手のだんじりほどの迫力は出ないと言われているが,
狭い道での遣り回しも,技術が要求されるだけに,かなりの見せ場となる。
また,何かの拍子で,だんじりが見えるのに,囃子が聞こえて来ない時がある。
山の田んぼの向こうを,だんじりが通る。
大勢の人がだんじりの上やまわりで群れている。
秋の一日の,ある一瞬の静けさ。
これは,幽玄です。
だんじりの季節になると,泉州一円が通行止めになる。
堺から和歌山に至る地域全てがだんじり一色になる。
好きも嫌いも,あったもんじゃない。
有無を言わさず,だんじりなのだ。
前にも書いたが,マンションにもだんじりがあった。
一応,マンションのパンフレットには,だんじり蔵があり,だんじりが置いてあると書いてある。
泉州に住んだ事の無い者には,これがどう言う事か今一つピンとこない。
だんじりは,金がかかるのだ。
動かしても,ただ,保存してても。
だんじりの木のタイヤは,動かさないときは,外気に触れたままにしておくと,
ひび割れて,使い物にならなくなる。
そこで,専門の保管業者に頼むのだが,このタイヤをはずす事からして,専用工具が必要で,素人には簡単にはずせない。
保管費用も年間百万単位で必要なんだそうだ。
「そんな余分な物は,売ってしまえ」とか,
「いや,文化財だから,そう簡単には売れない」とか,
諸説ふんぷん。結局,一度くらい引いて見ようとなって,購入先の部落に声をかけて,
教えてもらう事になったのだが,やって来たのは,ヤー様一歩手前みたいな怖い若衆。
が,彼らは,だんじりの事となると,本当に素直でやさしい。
で,一度引くと,これが結構病みつきになる。
面白い。楽しい。子供も喜ぶ。
少なくとも,売ってしまえという声は,消えた。
ところで,
だんじりを持っている町の人達は,好き嫌いに関係なく,だんじりというイベントに巻き込まれる。寄付金集めから,イベントへの参加まで。それが,嫌で嫌で仕方ない人もいるとか。
反対に,予算の関係とかで,だんじりを持っていない町の人達は,だんじりをもっている町の人たちに頼んで,参加させてもらうらしいが,絶対にだんじりの上には乗せて貰えないらしい。それが,情けなくて仕方ないとか。
あらゆる意味において,だんじりあっての泉州というのには,
間違いないらしい。
2003/10/6