「国際化」

 

 

マレーシアから来た17歳の女の子を二週間ばかり預かっている。

とても可愛らしい子で,大変に躾けがいい。

お父さんが,保険会社の副社長,お母さんが政府の経済関係の役所勤めだとの事で,言わば、ええしの娘だ。

マレーシアは,赤道直下の国で,日本の都市とかが珍しいだろうなんて思っていたが,

伊勢丹もジャスコもあって,都市のようすも,そんなに日本と変わらないみたいだ。

まぁ,これが,田舎の貧しい家の娘なら,目を丸くして日本を喜ぶのだろうが,

彼女の場合,車で15分の首都クアラルンプールに行けば,たいてい何でも揃うのだそうだ。

料理も,マレーシア,中国,インドネシア,タイは当たり前,日本料理のレストランもあって,

寿司や鰻も食べたことがあるとか。

一緒にいる印象だが,日本語が喋れないというだけで,いい意味でも,悪い意味でも,同じアジア人を感じさせる。

奥ゆかしいというか,あまり自分を主張しないというか,他人への気遣いが細やかだというか,

自己主張の強いタイプを予想していたこちらとしては,やや,拍子抜けする。

が,さすが,金持ちの子供だけあって,いろいろな国を旅しており,異文化への溶け込みの速さには目をみはる。

語学力もしかりだが,彼女は,どこでも一人でやれる力を持っている。

一人でやれるというのは,もちろん一人旅行ができるというレベルの話ではない。

異国で一人で道を切り開けるということだ。

わずか17歳で。

恐ろしいことですよ,これは。

我々日本人は,過去の栄光にすがって狭い国家に閉じこもりっぱなしになっている。

大人から子供まで,自分が偉いと思っている人から,そうでもないと思っている人まで,

金持ちの人から,ホームレスの人まで,会社で地位の高い人から,平社員まで,

とにかく,ほとんどの日本人が,今の日本のおかれている現状と未来に対して,

何一つ注意を払おうとしていない。

アメリカで何日か滞在すれば,一度くらいは,我々日本人が,

いかに社会性の低い国民であるかがよく分かるような事柄に遭遇できると思う。

例えば,こんな事。

 

オレンジカウンティ,通称ジョン・ウェイン空港から,帰国のためにロス・アンジェルス空港に向かう時の事だ。

30人くらいの小さなコミューターに乗った。

プロペラ機で,片側が回っていない。

で,皆で,一人だけのパイロットに進言したが,ノー・プロブレムと,取り合ってくれない。

でも,結局,離陸寸前まで回らず,飛行機は引き返し,小一時間待たされる事となった。

アメリカでの移動手段は,航空機が主流なので,結構ギチギチにスケジュールが組まれているらしい。

事実,私のスケジュールも,30分程度の乗り換え時間しかない。

これでは,日本に帰れない。

国内線でも,同じような事情らしい。

乗客全員がカウンターに詰め寄って,口々に訴え,混乱をきたし始めた時,

一人の20歳くらいの女性が手を挙げて,全員を制した。

このままじゃ,誰一人,言いたいことが実現しないわよ  と。

そして,端から一人ずつ,聞いては,カウンターに伝えていった。

わずか10分程で,カウンターの混乱は治まった。

 

これは,すごいことだ。

たまたま,そのような女性がいただけだとしよう。

それでも,すごい。

日本で同じような状況が発生したら,というか,発生しないような仕組みが出来上がっている社会が日本だ。

“ 赤信号,皆で渡れば怖くない 式の考え方が,社会性であると信じられ,

事実,この国の中だけでは,それが正しい社会。

だからこそ,突発的な事件に対応できない,しにくい社会。

そんな社会で,このような女性の出現率は ?

 

忘れてはいけない。

今日の日本の繁栄は,日本人の力だけで成し遂げられたのではない事を。

欧米諸国が,特にアメリカがリーダーシップをとって,対共産国の障壁として

わが国の経済が早期に立ち直る機会を与えてくれたのだ。

1ドル360円のレートを維持し続けてくれ,戦争からの富を大量に与えてくれたからこそ,

日本は大くの外貨を稼ぐことができたのだ。

その事をきちんと理解せずに,一人立ちする事を,いつまでも拒絶している社会。

 

今の社会は,若者たちに夢を見させてあげられない社会だという。

が,それは,わが国に突きつけられた,試練であろう。

今の勇気を挫かれた若者たちの次に,自分で海外に出て行き,自分で生活を切り開ける若者達の出現が待たれる。

それこそが,ニュージェネレーションだ。

誰にも,何にも頼らず,本当に役に立つ価値だけを追い求める若者。

それは,私の息子の世代か,それ以降の世代になるんだろうな。

 

マレーシアからの女の子を見ながら,そんな事を考えた。

 

 

2003.12.24