「三軒茶屋シネマ」

 

 

激しい雨の中,

東京の三軒茶屋にいた。

 

表通りは,まるで,「ブレードランナー」に描かれていたような,

雑多な人々が,雑多に歩いていた。

裏通りに入ると,どことなく淫靡で,人形師の四谷シモン (古い!!) が,黒い大きな傘を広げて,

暗黒舞踏の麿赤児(これまた古い!!) と腕を組んで,ふらりと現れても,全然違和感のない町。

 

なんとなく,誘われるままに歩き,勇気を出して裏通りを曲がったところに

その映画館はあった。

 

三軒茶屋シネマ。

 

1階は小さいショッピングセンター。

その横の切符もぎりの座っていない入り口の自動販売機で

ナイトサービス 700円也のチケットを買う。

その行為そのものが,異次元への通過儀礼のように思える。

チケット購入ボタンを押すかどうかで,一瞬迷う。

押した途端に階上から老婆が現れ,

「おぬし,今,押したじゃろう」等と因縁つけられ,

誰もいない筈のもぎりの椅子に,あら不思議,小人が座っており,

実は,彼らは,現代の街の海に巣くう海賊の手先で,

荒縄でグルグル巻きにされ,映画館の銀幕の裏手の奴らのアジトに連れ込まれるのではないか。

そんな,阿呆で楽しい妄想に襲われる。

が,ボタンを押しても,老婆も小人も現れず,古臭い音を立てて,チケットが吐き出される。

チケットを取り,狭い汚い階段を上ると,せむしの男,ではなく,ちょっと陰気だが愛想のいい男が,

手を出して待っているところに,チケットを放り込んで,狭い入り口を開けると,

どうしようもなく小さな映画館だ。

 

床磨きの油と,煙草と,酒と,阿片と,スペルマと愛液のただれた匂いが入り乱れている。

そんなことはない。

それでは,まるで魔都上海ではないか。

 

狭いが,結構,手入れの行き届いた映画館だ。

古くて,壁のところどころが剥げているのが,逆に雰囲気があっていい。

そのアンチックな映画館で,

「マトリックス リ・ローデッド」と「ハリーポッター」の第一作目が

二本立てでかけられていた。

この,まだまだ新しい映画が二本立て,700円ですよ。

昔は,関西にも,結構あった二本立ての名画座。

 

私の友人関係の中では,三宮の「ビッグ映劇」なんてのが有名だった。

古いのから新しいのまで,結構,いろいろかけてくれた。

「天井桟敷の人々」を見たのもここだし,

オリビア・ニュートンジョン主演の「ザナドゥ」なんてのも,

今の女房と一緒にここで観た。

 

姫路にも,やはり,名画座があった。

煙草の匂いのプンプンする中で,「明日に向かって撃て」や,「パピヨン」なんかを観た。

梅田にも,つい最近まであった。

阪急電車の線路の下。

「屋根の上のバイオリン弾き」や,「モスクワは涙を信じない」や,ワイダの「鉄の男」

なんてのがかかっていた。

 

残念ながら,三宮のも姫路のも梅田のも,今はもう無い。

無いと言うことが,不幸だな。

いい映画を,安い料金で,再度心ゆくまでじっくり観ると言う機会が

閉ざされているのだ。

関西は,特に,そうなのだろうか。

 

東京には,まだ,名画座が幾つか残っている。

 

新橋の高架下にも二本立ての名画座がある。

10年ばかり前に,財布をすられた経験があるので,

そっちは行かないようにしているが。

 

きれいな,近代的な映画館でロードショーを見るのもいいけれど,

ちょっと古臭い,狭い,けっして居心地がいいわけじゃない名画座で,

ちょっと古めの映画を安い金額で,じっくりと見るのもいいですよ。

 

なんせ,入れ替えなしですから,好きな映画を心ゆくまで味わえますから。

 





2003/11/12