「匂う」
朝マックしている時に,
その時が来た。
年間にわずか数時間。
どうせなら,もっと微妙な香りを楽しめる時で
あって欲しかった。
例えば,ハーブ料理を楽しんでいる時とか,
妙齢の女性の香水を楽しめる瞬間とか,
せめて,高いコーヒーを飲んでいる時とか。
まぁ,トイレでしゃがんでいる時でなかったのが
せめてものさいわいか。
実は,日常の私の世界には,ほとんど匂いが無い。
年に数回,数分から数時間だけ,匂いの戻る時がある。
だから,神経が死滅してしまっているわけじゃないと思う。
子供の頃から粘膜が弱く,風邪でもひこうものなら,何週間も鼻の詰まった状態が続く。
そのために,副鼻腔炎,つまり蓄膿症を発症してしまい,その後遺症なのか,
私の世界から匂いが消え去った。
多分,鼻の奥の粘膜が腫れ上がりっぱなしになっており,匂いを感じる器官を塞いでいるんだろうと思う。
で,粘膜の余程調子の良い,ほんの数分間だけ,匂いがもどるのだ,突然。
匂いが無くて味が分かるの?
とよく聞かれるが,これが,分かるのだから不思議。
確かに,美食家では無い。
でも,不味いものは,不味い。
美味しいものは,美味しい。
そりゃあ,匂いがあった方が断然おいしいに決まっているが。
カレーの匂いとか,金木犀の匂いとか,湿った土の匂いなど,強烈なもの,
遠い記憶と結び付いているものについては,結構,普通でも匂うことがある。
白黒の映像の中にバラだけが着色してあって赤い,なんてのがあるが,
他は無臭なのに,それだけが匂い立っているなんてことは,たまにある。
そういうのは,楽しいね。
この状態に慣れてしまっているので,特に不自由は無い。
書く物の中に,匂いを参加させられないのがつらいと言えば言える。
それと,ガス漏れ,火事。
火事の時に,それがために逃げ遅れたなんてのは,ちょっと情けない。
かつて,子供のいたずらで,あわや火事なんて事があったが,
その時も,私は全然気付かずにいて,あと少し放りっぱなしにしてたら,
火を出してしまうところだった。
匂いは,突然やってきて,緩やかに去っていく。
マクドのまずいコーヒーの匂いから,
徐々にはがされていく。
2003.11.28