「音の本棚」
二十数年前, (°o°;
(こう書き出すと,まるで戦時中の事を書くような気分になって,
愕然としている。)
ともあれ,二十数年前,大阪FMだったと思うが,夜九時から
サントリー提供で「音の本棚」という番組が放送されていた。
今のように,ゲーム機もパソコンも無い時代,
“テレビはちょっとね,ダサいよね” 気分の中・高生は,
ほとんどラジカセ(ラジカセですよ)に,かじりついていた。
ラジオやテープ聞きながら,勉強したり,読書したり,XXXしたり,
いわゆる,“ながら族”で,注意散漫になるから止めなさい等と,
親や先生から注意を受けていた,平和な時代だ。
特に,他に楽しみを知らないド田舎の中・高生は,
部屋にこもり,ラジカセの音量を最小にして,音が洩れないようにしながら,
聞いていた(我が家は,僕も妹も,そうだった)。
平日ならたいてい,午後九時前になると,いそいそとラジカセのスイッチを入れ,
チューナーを合わせ,スピーカーに耳傾けた。
九時の時報の後に,今は亡き小池朝雄氏の声で,
「音のー本棚」と,“の”を長く伸ばして始まる。
小池朝雄氏は,今や知らない人の方が多いだろうが,
かつて,刑事コロンボの吹き替えをやっていた人と言えば,
思い出す方も多いのではないか。
そして,あの独特の語り口で
「いやー,人生―ってやつは,ほんーとうに不思議なもんです」
なんてやられると,純朴なド田舎の中・高生は,
それだけで,大人の世界に触れたようで,ガビーンときたもんだ。
そして,その日のドラマのさわりを軽く喋った後,
ラジオドラマが始まる。
このラジオドラマが,古典,SF,ファンタジー等ジャンルを問わず,
名作を土台にして,しっかりとした構成と,声優と,効果音と,BGMで,
聞く者をグイグイと引き込み,15分をアッと言う間に終わらせてくれる,
素晴らしい出来合いだった(と,思う)。
真面目で純朴なド田舎の中・高生に
レイ・ブラッドベリーや,ロバート・A・ハインラインを引き合わせてくれたのも,
この番組だった。
ロバート・A・ハインラインの作品「大当たりの年」のラストは,
その格好良さと,クールさと,奥の深さで,ひたすら感涙したのを覚えている。
セリフの幾つかは,いまだに覚えているので,後日,紹介しましょう。
15分程のドラマの後に,数分のサントリーのオールドのコマーシャルが入るが,
これがまた,力作で,本編とは別に楽しめた。
時代的には,開高健氏や,山口瞳氏等が,加わっていたのだろうか。
(んなわけ無いよな)
そして,小池朝雄氏のエンディングの語り。
これが,秀逸。
人生の奥深さを,純朴なド田舎の中・高生に教えてくれた。
もし,テープでも残っていれば,
眠れぬ秋の夜長に,しみじみと聞きたい。