小道を急いでいると
ゴスペルが流れてきた
近くの大理石作りの教会からだった
教会名を刻んだ石版が
信号機の青を反射していた
入り口に立つ顔の大きな女性の案内で中に入ると
ゴスペルのリズムとは対照的に
閑散としていて
パイプ椅子が並んだ先に
大きなテレビジョンがあり
黒人の顔が大写しになっていた
歌はすばらしかったが
乗り切れぬ思いで
入り口に突っ立ったまま
君に電話した
深夜残業必至の君は
さらに乗り切れぬ声だった
仕方なく缶ビール片手に
入り口の柱にもたれて
ゴスペルを聞いた
信号機の光を反射する街路樹の葉を見ていると
案内の顔の大きな女性が
もう落葉の季節ですねと
声をかけてきた
君の代わりに
この女性と寝てもいいと思った
新しい缶ビールを差し出すと
ありがとうと受け取って
入り口の石段に座って
リップを開けた
その隣に座って一緒に飲みはじめたが
とたんに宗教的な話が始まった
宗教は苦手だというと
黙ってしまった
宗教より性欲の方に興味がある
その後は会話も無く
終わりの見えないゴスペルを
黙って聞いた
石段に刻まれた
大量の歴史の中に
ひたすら埋没した
そう言えば
この建物は
保存すべき建造物として
市が管理する事になったのだそうだ
建物が刻んだ長い時間とは
全く無関係に
信号機が点滅し
性欲も点滅した
どうやら
君の時間の前で
僕が点滅している
do_pi_can ド・ピーカン どぴーかん さて、これから 詩 小説 エッセイ メールマガジン