「夏の終わりの夕暮れに、
一台の車が坂道を発車する」
あの車のテールランプについて行き
角を曲がったところで
秋めいた風に遭えると思う
薄く不確かな月が
中腹まで灯りのともる山の向こうに沈んで
虫達の鳴き始める気配が満ちる時
やっとエンジンのかかる車
ヘッドライトは
ここから見える都市の幻影の深海の
かなたにまで届き
台風一過のちぎれ雲が
反射光に浮き上がる
夕闇の羊のように銀河をさまよう風が
坂を駆け登ると
ヘッドライトは突き当りの壁を照らし
追いすがってテールランプが角を曲がる
野球帰りの少年の自転車がそれを追う
その少年が君だ
君は
泥にまみれたユニホームを着て
あの角を曲がる
そして
僕より先に秋の風を知るに違いない
僕より先に憂いを含むに違いない
僕より先に車の正体を見届けるのだろう
僕がようやく角を曲がり終えると
君の姿はもう無い
かわりに
巨大な冬の幼虫がいる
do_pi_can ド・ピーカン どぴーかん さて、これから 詩 小説 エッセイ メールマガジン