夏の形見

町を見下ろす高台で

抜けられずに終わったセミの骸を見つけました

捨て去りたかった殻から身半分をせり出して

あと一息なのに、それ以上どうにもならなくて

「無念」と、その目は訴えてました

「ああ、どうして」と、私の心に想いが届きました

樹上でくりひろげられる饗宴とはうらはらの

ひっそりと静まったその骸には

アリが何匹か取り付いて

早々と、果せなかった夢の後片付けを始めてました

じりじりと皮膚を焼く日差しの下で

私は、どうして上げることもできないでいました

せめて入道雲の盛り上がるあたりまで

セミの想いを届けてあげたかった

アスファルトの上じゃなくって

湿った匂いのする草むらの中で

息絶えたのがせめてもの救いでしょう

いつまでもこだわり続けずに

季節が移り変わる前に想いを消してしまえるのが

たった一つの救いでしょう

 

私もセミだったらと

誰にも見られないようにして泣きました

小さな嗚咽は何処にも届かず

セミの声にかき消され

私の心に跳ね返ることすらない

揺れる萎びた朝顔に

お前は幸せね、だって種を残せるじゃないと、

悔し紛れに話し掛ける自分に

「何故?」と、もう一人の私が問う

じりじりと、皮膚を焼く日差しの下で

風さえ止まった夏の高台で

あきらめた想いが、また芽を出します

もう、忘れ去ったと思っていたのに

この肉体に刻まれた想いの幾つかが

私を裏切って

静かに、静かに芽を出します。

 

 

 

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