僕だけの海を四角に切り取り
一等船室の壁にはめ込む
二月の夕闇迫るその海には
にやけた猫の死骸なんかが浮いていたりする
僕だけの海は、四角い縁の中を
北から南と流れていく
灯りの揺れる島影には
僕だけの街があり
僕だけの街には
僕だけの郵便局や
僕だけの電話局がある
僕だけの煙草屋の前で
セブンスターの封を切った僕を
薄もやの波頭に見え隠れする
黒いビーチボールが所在なげに見ている
僕だけの海は
今、紅く染まり
やがて薄れて
闇に溶かされていく
そうすると
船室の僕は、烏賊釣り舟よろしく
ピカピカと明滅し始めるのかもしれない
そんな事を考えていると
一人だけの一等船室が嫌になって
人の笑い声の響く二等船室に移動する事にした