波の上を蝸牛よろしく這いずるのは
僕
波の間に見え隠れする黒い物体は
いつかの夏
君が沖へ流したビーチボールだろうか
遠い夏の日
忘れかけていた思い出の入道雲
いつも僕の中で
むずがゆく
いとおしく
叫んでいたのは
ああ、君だったのか
君、波の間から僕に叫ぶ
「私はここにいる。」
あの、いつかの夏の日
交差した二人の時間は
長い旅の果て
再び重なり
僕、君に応える
「僕もここにいる。」
「ずっと、ここにいる。」
暮れ行く二月の日の
フェリー一等船室の中
僕、一人。