「あなたの乳房を揉みしだきたかった」
閉塞した車両の中程で
身動きもできず
ただ,鉄橋を渡る音だけが
耳の中に響く
今,足元にある河は
もうすぐ海に注ぎ込み
自由を謳歌するのだと言うのに
私は,
足を鎖に繋がれた囚人のように
電車の車両の中程で
ポマードや香水の匂いに喘ぎながら
立ち尽くしていないといけないのだ
何の因果だか
脳髄が閉塞し始める
まだ二駅も
こうしていなければならない
人格を自ら壊し
耐える事だけに意識を集め始めた時
誰かが何処かで窓を開け,
車両を新しい空気が駆け抜ける
鼻腔から海馬,灰白質へと
純水な気体が通り過ぎる
そんな時だ
あなたのうなじから胸元へと流れるなだらかなラインを
想念で辿り,辿り,
あなたの乳首と乳房を思い描いたのだ。
また,こんな事もあった
名古屋から在来線で大阪へと帰る道すがら
思わず知らず
下車してしまった米原の駅
乾燥した冷たい風が
ホームのベンチに座る私の耳元を突き刺して通る中
自分が何であったかを忘れてしまいたくなった。
琵琶湖の南端を通って京都に抜ける筈の人間なのに
湖北の風に引かれて,
想いは福井を抜け,日本海へと向った。
そして,
いつか見た冬の荒い波に
頬擦りする事を夢見始めていた。
夜は,おかまいなしに時計の針を進め
いつ来るとも知れぬ電車の時刻表の空白に,
ホームの端の裸電球が
テラテラと,混ざりこんでいった。
その鼻白んだ空間に
何ものにもなれない,なりたくもない自分の
ふがいなさを投影した時,
あなたの白いうなじから胸へと雪崩れる曲線を
想起した。
そして,そこから続く優しい乳房のふくらみと乳首の固さを思ったのだ。
そうだ,
わたしは,その時こそ,
あなたの,その乳房を揉みしだきたかった。
そこに詰められた
あなたの優しい柔らかさを
この手に,両の手に
感じたかった。
いつも,いきなりやって来る
あてどない想いの連続に
終止符を打つために。
do_pi_can ド・ピーカン どぴーかん さて、これから 詩 小説 エッセイ メールマガジン
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