「つる苔桃の夜,月明りの中で」

 

思うに

お月様だって

そのつる苔桃を食べたかったに違いない

それのおかげで湿地だけでなく

森中が甘く匂っていたもの

良く熟れて

少し押しただけでも

果汁が滲み出て

夜を

特別なものに

変えたから

 

そのつる苔桃は

少年のように若く張り詰めていた

 

大蛇が守っていたけれど、

何、奴だってつまみ食いしすぎて

体を動かすのも億劫だってさ

だから,見つからぬところから

手さえ伸ばせば

とり放題

のように思えた

我々はね

 

苔桃の実は覚悟を決めた処女のように

慎ましやかだったから

 

お月様は

降りるに降りられず

手をのばすにのばせず

雲の隙間から

目を見開いているしかない

 

我々が

眠りこけた大蛇の横で

苔桃の甘酸っぱい実を食べるのを

 

森のはずれの湿地の上に

長く延びた我々の影

 

風は既に冷たく

月明りと雲の合間に

オリオンの羨ましげな顔も見えた

 

我々は上品だから

大き目のクリスタルのブランデーグラスを用意して

そこにつる苔桃を入れ、

ブランデーと砂糖をかけて食べた

 

もちろん,

大蛇が目覚めた時のために

同じのを奴の前に用意しておいたさ

 

ほれ,これが

その時の写真だよ

我々の背後の沼の水面に

お月様が悔しそうな顔して

見ているのが

写っているだろ

 

do_pi_can   ド・ピーカン  どぴーかん  さて、これから  詩  小説  エッセイ  メールマガジン

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