20162

ストレスチェック実施からレジリエンス(打たれ強さ)を構築する

 

=ストレスチェックと心の健康=

<参考までに:ストレスチェックについて>

私達は、身体と心の健康をベースに活動しています。

身体が不健康では、なかなか仕事も成果が出しにくいように、心が弱ってエネルギーを出しにくくても、仕事や家庭生活はうまくいきません。

身体が弱っている時には、原因を知るために、健康診断にかかったり、 お医者様に検査してもらったりしますね。

そして原因がわかれば、薬を飲んだり、ゆっくりと養生したりして身体の不調を治します。

 

心が弱っている時には特に、心が不調であることにすら気づけない場合もあります。

不調状態に慣れてしまうからです。

しかし、不調が取りのぞかれたわけではないので、徐々に心をむしばみます。

そして、いきなり壊れてしまいます。

あるいは、仕事に夢中になるあまり、自分が疲れていてつぶれそうな事に気がつけないこともあります。そうなると、せっかくの能力も満足に発揮できません。

 

ストレスチェックは、そうならないための心の健康診断なのです。

ストレスチェックで、自分では気づけない不調が見つかる事もあります。

不調の原因が特定できれば、あるいは、対処の仕方が分かれば、元気な状態に戻せます。

不調の程度が重いと診断された場合は、 早めに産業医の先生に相談してください。

 

逆に、自分は元気だ、では、どのように元気なのだろうと、改めて確認する事で、今後万一不調になった時でも、早く立ち直れる可能性が高くなります。

「己を知らば、百戦危うからず」と昔から言いますからね。

 

 


 

=ところでストレスとは何でしょうか?=

 

<アメーバーにストレスはあるのでしょうか?>

あります。環境の変化がストレス、変化への対応がストレス反応ですから、例えば、光の嫌いなアメーバーに光をあてると、それをストレスと捉えて、えっさかもっさかと逃げます。逃げるのがストレス反応です。

 

<メダカはウツになれるでしょうか?>

なれます。水槽に仕切りを入れて、片側にメダカ、もう片側にメダカを食べる大型魚を飼うと、メダカは、大型魚の存在をストレスと感じ、常に緊張状態(逃走状態)。餌も食べられず、一週間以内にエネルギー枯渇して、死にます。死ぬ直前は、ほとんど無気力、うつ状態です。自然界では、逃げ切れるか、食べられてしまうかのどちらかですが、人工の環境だからこそ、うつになれるとも言えます。

 

<ストレス状態とは、どのような状態でしょうか>

私達の身体は、「生き延びる」という目的のためだけに機能しています。

冬の到来や夏の日照りなどの周囲の環境の変化に対応したり、大型の野獣等から身を守ります。つまり、生き延びるために、身体の中は一気に変化します。これがストレス反応です。生き延びるという行動のために身体や心は様々な影響を受けます。これがストレス状態です。

ストレス反応は、身体の中のホルモンバランスの異常などからも起こります。疲れをためず、規則正しい生活、より自然に近い生活ができていないと、身体の中はあっという間にストレス状態となります。

    

<身体の中で起こっているストレス反応>

身体は脳からの指令を受けて、危機状態のホルモンバランスを保ちます。

その結果、

手足にエネルギーが集中し、緊張し、力がはいり、汗ばむ

血が一気にドロドロになる(万一怪我してもすぐに固まるように)

ドロドロの血を必死で身体に送りだすために心臓の動きが激しくなる

血流が脳にではなく、身体に主に向けられる(必死で逃げられるように)

胃液の分泌が抑えられ、胃壁が胃液で溶け始める

免疫能力が抑えられ、ばい菌が身体中をかけめぐる(腫れていては逃げられない?)

脳へのエネルギーが低下し、判断能力が弱くなり、ミスや物忘れが増え始める

身体の状態が脳にうまく伝えられなくなる = 身体感覚の喪失

(お腹がすいた、疲れた、眠い、痛い等と言っていては逃げられないから)

などの現象が身体の中で起こります。

 

<現代社会のストレス>

昔は、生き延びられたか、不運にも命を亡くしてしまったか、私達のまわりでおこる事態はシンプルでした。生き延びられれば、危機を脱したと言うことで、ストレスも無くなります。「緊張状態」から脱して「緩和状態」、つまり「食う・寝る・遊ぶ」状態となります。

現代社会では、命の危険はほとんどないですが、仕事や上司や家族などが常に身近で、まるで猛獣のようにプレッシャーをかけてきて、ストレスがじわじわと私達を襲います。

しかし、プレッシャーがないと、「食う・寝る・遊ぶ」状態となり、仕事にはなりませんね。ですから、適度にプレッシャーをかけて緊張させて、タイミングよく気分転換して身体を緩ませ、「食う・寝る・遊ぶ」状態でエネルギーを貯めて、再び緊張させるという最適なリズムを保持するのが正しい仕事への向かい方と言えます。

 

<仕事がストレスとなる理由>

仕事がストレスとなる理由は、長期的に身体を緊張させてしまい、エネルギー枯渇状態になっていくからという理由もありますが、もう一つ忘れてはならない、わたし達の習性があります。

 

私たちは、「環境の変化をいち早く察知して危機を知り、逃げ延びる」という暮らしを、何億年と繰り返してきました。つまり、わたし達の周りにあるものは、常に変化しているのだという思い込みがわたし達の中にはあります。そして、その察知した変化に何らかの意図を読み取ります。多くの場合は、「敵か、味方か」「危険か安全か」という基準の元に、その変化を読み取ります。特に、対象がニュートラル(中立)なもの、無機質で本来は意図を持たないものの場合、わたし達の感情や記憶をそこに投影します。真っ暗闇で白い物が揺れていると、何を感じますか?そう、そこに恐怖心を投影しますね。何か後ろめたい事があると、それを投影し、誰かからの呪いや恨みなどを見出したりします。

 

仕事(労働)は、昔々は、日常生活に直結し、生きていくための必須の行動でした。ところが、産業革命から以後の仕事は、日常生活や命には直結していません。そして、現代社会では、ますますシステマチックにニュートラル(中立)なものとなっています。そこには、私たちを食い殺そうなどという意図は勿論存在しません。

が、だからこそ、そこにわたし達の感情や記憶などを強く投影してしまうのです。わたし達自身の感情などだけでなく、わたし達の仕事仲間や仕事相手(お客様)の感情なども、そこに反映させてしまいます。

例えば、同じミスを繰り返した時や、上司に怒られた時など、仕事にまで拒絶されたような気がしませんか?仕事は、あなたを拒絶したりするわけないのに、です。私達は、こんな風に、イライラや不安、怒りなどを仕事に投影します。そして、それらを仕事からのプレッシャーとして感じとるのです。

 

当然、適度に身体を休めたりしないと、ミスの増加、記憶力の低下などで、さらに仕事からのプレッシャーが増幅します。


 

<ストレス過多から心身の不調への流れ>

別表参照

 

<仕事のストレスが発展すると>

プレッシャーを感じたり、疲労が蓄積したりして、身体がストレス状態になると、脳へのエネルギー供給が低下します。そうすると、正しい冷静な判断が難しくなります。活力はさらに低下します。仕事からは悪い影響ばかり受け始めます。ここらで気がつき、対処できればよいのですが、さらに進展すると、ミスが増加し、物忘れが増え、人間関係が悪化し、不安感はさらにつのり、プレッシャーがますます強くなるという、負のサイクルに入り込みます。

 

<ストレスが長期間持続すると>

大昔のように短期間でストレス状態を解消できていれば、それは私達にとって自然な状態なので、そこから力を得ることもできるでしょう。

「危機的状態だ」という状況を長引かせすぎてしまった時が要注意です。

次のような状態が二週間以上持続するか、耐えられないくらいにつらい時は要注意。

すぐに医師やカウンセラーに相談してください。

別表参照

 

=ストレスチェックの結果をどのように活かすか=

<ストレスチェックの結果、高ストレス群と判断される主なケース>

 

別図参照

 

上の図で、左上枠の「ストレス要因」が高い割に下枠の「ストレス緩和要因」の下段、つまり周囲の支援をあまり受けられていない人(仮にA群)、もしくは、右上枠の「ストレス反応」が非常に高い人(仮にB群)について、ストレス反応が高い、あるいは今後高くなる可能性があるので、早めに医師やカウンセラーのアドバイスを受けてくださいと案内されます。

 

<高ストレスと判断されたら>

まず、その「高ストレス」が一時的なものか、二週間以上継続しているものかを判断してください。

また、その「高ストレス状態」から、自分で抜け出せるか、誰かに助けてもらわねばならないかを判断しましょう。誰かに助けてもらったほうが良い場合は、遠慮なく助けてもらいましょう。

特に、下記のような場合は、誰かに助けを求めることを真剣に考えてみてください。

・ため息や暗い独り言ばかりが出る

・前まで集中できていたことに、全く集中できない

・良い事など何一つ起こらないと思える

・自分のまわりでは楽しいことなど何一つ起こらない

・寝ようとすると不安な事ばかりが思い出されて眠れない

・お腹がすかず、ふと気づくと何食か平気で抜いていた

・自分はいない方が良いのではないかと思える

・もう死んでしまいたい

 

A群、B群の方で、もし、前ページの表の中に記載しているような身体の症状が出ているようでしたら、お医者様に相談し、早めに仕事の中身を整理し、ちょっと長めの休暇を申請するのが正解です。

 

<高ストレス対処時のポイント>

(1)お医者様から出された薬は恐れずに飲む

精神疾患向けの薬について、あまり良い事を言わない人が多いですが、本当につらい時は、しっかりと飲む事が大事です。ネガティブ感で飲んでしまうと、効能の無い化学物質を飲んでいるのと同じです。ただし、万一、副作用がきつい、投薬期間が長い、投薬量が多いと感じられたら迷わずセカンドオピニオンを探しましょう。

(2)楽になってきたら積極的に外出し、身体を動かす

会社を休んでいるのだから、安静にしておかないといけないだろうと考えがちですが安静にしていると、不安感や後悔の念しか沸き起こりません。積極的に、かつ、計画的にトレーニングとして身体を動かしてください。テーマパークにいく、カラオケボックスにいくのもいいですが、プレッシャーで喪失した身体感覚をまず取り戻してください。そのためには、運動や野良仕事が最適です。普通に散歩する、瞑想呼吸するのも効果があります。

 

<高ストレスからの脱出>

会社を休職しても、ただ家の中でボーッとしていたのでは、仕事の事が気になったり、不安が募ったりし、休んでいても休めていない状況が発生します。これでは、三ヶ月や半年も休まねばどうしようもありません。心の不調からくる身体の不調は、ウィルス性とは違います。例えば、安価な湯治場に一週間くらいつかりに行くとか、永平寺に瞑想しに行くとか、登山に行くとか、釣りをするとか、畑仕事に勤しむとか、日曜大工をするとか、料理を作るとか、仕事で無い事に身体を使い、気持ちを切り替え、身体感覚を取り戻せるスケジュールをしっかり立てて実行する事をお勧めします。休む期間も、お医者様や上司と相談し、できるだけ短期回復を図ってください。

休み中は、簡単な日記をつけて、自分の状態を可視化してください。それは、仕事に復帰した後、あなた自身の打たれ強さの大事な参考資料となります。

 

<うつ病の症状改善と運動と投薬との関係>

体調不良の時は、何もしないで寝ているに限ります。ただしそれは、ウィルス性など原因が明確な時です。精神面の不調から心身不調に陥った時は、多少無理してでも、不調原因以外の事で心や身体を使うのが良いのです。そして、早めの復帰を心がけます。

下記は、デューク大学で重度のうつ病の方を対象に行われた調査結果です。

左から、毎日30分歩いた人の4ヵ月後の回復率と10ヵ月後の再発率、投薬治療を受けた人の4ヵ月後の回復率と10ヵ月後の再発率、投薬と歩きの両方した人の4ヵ月後の回復率と10ヵ月後の再発率です。

別図参照

      

<注意>

ただし、本当につらい時は、無理しないでください。また、抗うつ薬に対するネガティブ感は持たないでください。デューク大学の実験で抗うつ薬の効き目が悪かった理由の一つに、クライアントの身近に抗うつ薬に対してネガティブな発言をする方がいたため、効く薬も効かなくなった可能性がある事が指摘されています。

 

<高ストレスからの脱出ノートの作成>

高ストレスと判断された方も、判断されなかった方も、できれば一定期間ノートをつけてみてください。自分のその日の調子を点数化します。そして、昨日よりも点数の良い理由、悪い理由を考えてみます。良い理由は山のように見つけてください。悪い理由は、もっとちがう考え方ができないかを、真剣に考えてみてください。数週間つけてみると、自分の落ち込みパターン、復帰パターンが見えてきます。

 

<ストレスチェックの結果をメンタルタフネスに役立てるには>

私達は「言葉」と「文字」を持ち、「言葉」と「文字」から影響を受けて生きる動物です。

面倒くささを感じるかもしれませんが、メンタルタフネスには「言葉」と「文字」が必須です。

たとえば、ストレスチェックの結果の中から、ネガティブな部分を見つけ出します。

(例えば、上司との仲が悪いとか、職場環境が悪いとか、仕事がハードだとか)

そのネガティブ要因を、自分がどのように乗り越えてきたか、乗り越えようとしているか、あるいは、今後、どのように乗り越えるつもりかを考え、書き出します。

ネガティブ要因を乗り越える要因を言葉にして書き出し、さらに意識に組み込むことで、その人の打たれ強さをより強化してくれる可能性があります。これがメンタルタフネスへのトレーニングの一つです。

また、親しい同僚などと、互いのメンタルタフネスを共有し合うことも大事です。

あるネガティブを乗り越えられないからといって、それは弱者の証拠ではありません。それ以外のタフネスを見つけ出しましょう。同僚などと相談しましょう。さらにタフネスになるにはどうしたら良いかも検討しましょう。

 

 

<参考までに>

東京都立川市に本社のあるアドックインターナショナルという会社は、体調の悪い人同士5人で、三日間、古民家に泊まりこんで、自分達の決めた作業をします。たった三日ですが、かなり回復して、職場に戻れているようです。ちなみに、このプログラムを開始するときには10名くらいの休職者がいたそうですが、3年後には誰も退職せずに、休職者、休職予定者0名となりました。

人間は、一度何かから立ち直った経験を持つと、そのたびに「心」が強くなります。

大事なのは、立ち直った、回復したという意識をしっかりと持つ事です。

 

 

=さらにレジリエンス(打たれ強さ)を向上させるには=

例えば、五郎丸選手のルーティンの効果は、単に真似しても得られません。五郎丸選手は、ルーティンにもしっかりとトレーニングを行っているからです。トレーニングをさぼれば、アスリートは勝てません。私たちも同じです。打たれ強さを保ち、向上させるには、トレーニングが必要です。

トレーニングとは、身体や心に無理なく負荷をかけ、少しずつ強化していくことです。

 

<レジリエンス向上のもっともシンプルなトレーニング>

別図参照

 

他にも、「イライラした時に、身体中の力を入れて一気に抜く」や、「落ち込んだ時に、あえて足を高く上げて歩いてみる」などがあります。自分に合う方法をいくつか見つけ、気長に取り組むのがコツです。

「瞑想呼吸(深い呼吸に意識を集中して継続的に行う)」は、横隔膜という一番大きい筋肉を継続的に動かすことに意識を集中するところに、その効果の源泉があります。

 

また、誰かの役に立ってみる(慈善活動など)ことによるメリットは、下記のような学術誌でも報告されています。「誰かの役に立ってみる」とは、「誰かを喜ばせる」「誰かに感謝される」事ですから、会社の中でも実行できますね。

 

<レジリエンスを誰かと一緒に高めあう>

ハーバード大学の76年間にわたる追跡調査(今も継続中)があります。

お金持ちや貧しい家庭の人たちの中から何名かピックアップして、本人や家族、子供、孫に至るまで何十年も追跡調査します。その結果、今の時点で唯一言える事として、どのような環境であれ、親もしくは親以外の隣人(尊敬できる大人です)と良好な関係を得られた人は、それ以上に状況は悪化しないようだ、という事です。

つまり、人には、人からのパワーが必須だと言う事ですね。

別図参照

 

<レジリエンスを高めるシステムを構築する方法もあります>

スマートホンで、仲間を「励ます」「賞賛する」「慰める」システムを作りましょう。

定期的に結果を共有して、互いに意識し合っていることを確認します。

簡易なシステムで、驚くほどのチームワークや、個人の打たれ強さが醸成される可能性が高まります。

 

 

私どもの話は以上です。

 

弊社ホームページでは、

ポジティブ心理学や行動経済学を、最新ニュースに絡めて案内するプチエッセイ連載。

「褒める」や「怒りを制御する」などをテーマに、管理職も必読の子育てブログを連載。

4月には「怒りのコントロール」をテーマに新書を出版します。

 

            

 

お忙しいところ、お付き合いいただき、ありがとうございました