「吐息」
いくつもの夜が生まれ
そして 壊れる
雨の中で
星空の中で
男は女を抱きしめ
子供は目を覚まし
指をしゃぶり
あるいは悲しい電話のベルが鳴ったり
ああ 遠い世界だ
全ては街の灯の向こうにある
今消えた一つの灯が
男の死を意味するのならば
今灯った一つの灯りは女の愛を意味するのか
誰もが表情をかたどる
泣いている
笑っている
叫んでいる
ああ 遠い世界だ
幸福と不幸が
ゆずり合いながら
連鎖している
どちらかが壊れ
どちらかが人の顔をつくる
ほら あそこの
裸電球の下
草のざわめくあたり
薄汚れた一匹の犬が
今 息を引き取る
犬の横たわる板切れの下を水が流れている
ああ 遠い世界だ
遠い世界だ
僕は
雨に濡れそぼって
孤独です