後書き  (2002.2.17)




「トップ・オブ・ザ・ワールド」が、終了したんで、
何か書かないといけないな。

終了したといっても、これは、もう5年も前に書き上げて、
ほったらかしといた作品なんですが。

約20年前、臨床心理をかじっていた僕は、
ある精神病院で、ロールシャッハやIQテストを行う仕事をしていました。

ある日、40代後半の何処から見ても水商売を生業としていらっしゃる女性が、
10才前後の娘さんを連れてやってこられました。
目的は、娘さんのIQテストでした。
テストの結果、娘さんの知能程度は4才児程度。
その時に流行していた歌手の名前や歌は全て記憶していて、
逆に彼女の頭の中には、その事しかなく、
彼女が一番最初に僕に言った言葉が、
「お歌、うまい?」でした。

テストの後、お母さんであるその女性が世間話の中で、
「娘のために、もっと稼がないといけないんですよ。」
と、おっしゃいました。
彼女らは、母子家庭でした。
僕は、何気なく、「そうですよね、頑張って下さい」と、答えたのですが、
彼女の顔は一瞬、「あなたに何がわかるの?」と言う顔になり、
その次に、
「娘の避妊手術費用がいるんですよ。卵巣を取ってしまわないと。」

僕は、その言葉に愕然としました。
青臭い正義感によってです。

なんで、実の娘にそんなひどい事をするんだ、と。
あなたの所有物じゃないでしょ、と。
僕は、激しく抗議したのを覚えています。
彼女は、ただ、黙って僕の言葉を聞いているだけでした。

その後、年を経るごとに、彼女の言葉がより、重みを増してくるのを感じていました。
ただ、僕にとっては、全然リアリティの無い言葉です。
やはり、
「何故?
他にどうしようもないのか?」
と言う疑問が残っていました。

どんな人生を歩めば、彼女の言葉がリアリティを持って迫って来るのだろう。

それを知りたくて、いきなりペンを取ったのです。
ただ、そのうちに、登場人物が勝手に動きだしてしまい、
最後の方は、アクションものみたいになってしまいましたが。

さて、どなたか、冬生の最後の思いに引っかかりを感じていただけましたでしょうか。
だったとしたら、このストーリーは、ちょいと成功かな。

あの親子はどうしているだろう。
幸せであって欲しいと言う思いもこめたつもりです。

では。