不幸な朝

あなたの少し上向き加減の鼻先の

氷のかけらが溶けるように夜が明けると,

時間が再び回り始めた。

 

あなたの白い指先から弾き飛ばされた

黒光りする小さな甲虫の目で

私は世界のぬくもりに触れてみる

 

流れ落ちる時の雫が耳朶を刺激するように

飾られたあなたの爪の先から

ゆるやかに覚醒が這い出てくる

 

鋭く攻め寄る冷気に向かって

中世の巨大な騎士が盾振りかざす靄の中

臙脂色の始発電車が発車する

 

東へと向かうその電車の中で

細い肩震わせているのは

もう一人のあなただ

 

遠い国で人が撃たれたと朝一番のニュースが報じる

それを聞くあなたの足元で

行く当ての無い老婆が一人で息を引き取る

枯れ果てた涙の目で朝焼けの空を見るあなた

 

あなたのその電車は豊穣の地には行かないから

あなたを守るためだけに私は地下から這い出よう

あなたを守るためだけに

 

 

 

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