未完の思い出

ちゃぶ台にて

祖母が

むく

 

ひび割れた

湯飲みの

影が

長く伸びる

 

練炭の

匂い

 

かつて,

妹が

一酸化中毒になりかけた

 

ちゃぶ台の

祖母は

萎びていた

 

それ以外は

漠たる

思い

 

裏には

畑があって

刈り取った草を焼くと

臭かった

 

製材所の

小さな鉄工所の

貨車の

小学校の

 

小さな

ひなびた

山の神が

治める

 

今は

閉ざされた

鉱山がある

 

かつて

銀が採れた頃には

十万近い人が住んでいた集落も

わずか数十人を

残すだけの

 

カドミウム汚染で

決して川で採れた魚は

食べてはならなかった

 

町の下には

縦横に

穴が掘られ,

トロッコが

走った

 

夜中に耳を澄ませると

地面の下を

トロッコの走るのが

聞こえた

地区もあった

 

沢山の人が

落盤で亡くなった

友人は

両親を

落盤で

亡くした

 

廃鉱になる時

そんな人達の魂が

町を彷徨うのだと

噂した

 

今でも,

たまにトロッコの走る音が

聞こえる

ような気がすると,

古い友

 

思い出が

白い筋を伴って

剥き出される

 

ちゃぶ台の上

 

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