蔦の橋と君の心

 

“つまり,いわゆる,一つの”と,

常套句を言う時の君の唇が

蔦で編んだ釣り橋の上を

危なっかしく渡ろうとするので

後ろから抱きしめ,

古びた埃だらけのポストのところまで

誘導する

そうだよ,

葛餅を一緒に食べた

あのポストの前

ボンネットバスが走り去った後の

埃の中から郵便配達夫があらわれて

中身をあらいざらい持ち去った

あのポスト

あの日の郵便配達夫は

二度とあらわれる気配が無い

彼は

君の体を持ち去ったのだったね

谷間の村のどこかに

郵便配達夫と一緒に暮らしている

君の体

あれ以来,僕は君の心という

やっかいな代物だけを

後生大事に抱える事となった

僕は、

君の体のほうがよかったよ

柔らかいし

温かいし

湿気ていて

しっとりとまとわりついて

気持ちよかった

そうだ,

今日は,君の心を

捨てに来たんだ

あのまま,蔦の橋から

真ッ逆さまに落ちてくれてもよかったのだが

それでは,あまりに冷たかろう

あの山のてっぺんの木の枝に

引っ掛けてあげるとしよう

心は,もうごめんだよと

言いながら

次は

心の無いのにするよと

言いながら

そして,

おいしいお蕎麦を

食べて帰るとしよう

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