吉野家にて

夜更け

父と息子がカウンターにいる

 

猫背の父と

真っ直ぐに背を伸ばした息子

 

別に何の話もせずに,

ただ,箸を動かしている

 

ドアが開いて

街の喧騒が二人の頭上を通り過ぎる

それより大きい店員の声

 

父は,

入ってきた労務者風の男に

ちらりと目をやると,

再び丼に向かう

 

息子が

大きな音で鼻をかむ

 

父は,

今,息子に何か話しておかねばならない事があるような気がして

ふと顔を上げるが,

カウンター越しの若者と目が合ったので,

再び丼を見る

 

明日,父は葬式に出席する

夢破れて死んだ従兄弟の葬式

 

やはり何かをしゃべっておかねば

何かを,わが子に

 

従兄弟も

そう思いながら息引き取ったに違いない

 

実際に口をついて出てくる言葉は

軽いだけの冗談なのだが。

しゃべり足りない思い

 

従兄弟よ

君はちゃんとしゃべっておいたか

 

 

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