「黄砂」


降るのではない
吹かれ来るのだ

寒暖の激しい悠久を
安住の地と決め
とどまりいたところを
いきなり大気に持ち上げられ
大空を揚々と移動する雲を抜け,
丸く広がる黄色の大地と,さんざめく海を眼下に見,
大気を次の住処と決めかけたにもかかわらず
いきなりの下降気流に手をとられ,
このひしめきの地をどれほどか
吹かれ吹かれ
ように辿り着く

ここから,地に潜るもの,流され行くもの
それぞれに,新たな想いで積み重なり,
新たな想いで流される

そう,われらは,記憶することを知らぬ
移動するか,堆積するかの
どちらかなのだ
どちらであっても,大差はない
世の始まるときより,世の終わるときまでが
われらの命ならば
離散し,結合し,また離散するを
幾度繰り返すことか

仲間のまことに多くは
大気のはるか外におり,
どれほどの速さかはわからねど,
我が吹かれ来たりしここより,
はるかに,はるかに,遠ざかりつつある

我等は,それぞれに個別であるが,
それぞれを感ずることができる
何ほどの手段もいらぬ
感ぜようとすれば,即ち感ずる

地中を流れし者
大気を漂いし者
海の底深くにうつろいし者
今,まさに燃え盛る者も
あるいは,冷えた後,再び形となりつつある者も

さように
変化し,変転する

我もまた,再び,ここより
吹かれ,飛ばされ,
海にでも落ちるか
魚に飲み込まれ,
いくつかの体内を経た後
海底を漂うこととなり,
しばしの軟らかい堆積の後,
干上がりしそこより,
再び吹かれ出でるか

そして,
我らの中に埋もれつつある
文明と名づけられ,自ら滅びし
つかの間の夢の痕跡を見ることになるか
そして,それら形骸も
崩れ,元の我らと同じ姿に戻るのだ

さよう,
我が吹かれ降りし,ここ,
フロントガラスなるものも,
我を流し去ろうとするウオッシャーなるものも,
フロントガラスの中で,顔をしかめし
男というものも,
我らの変転の一部に過ぎぬ

いずれは,大気に持ち上げられ,
あるいは,流され,
我に会うのだ

その時には,
この者達も,我らと同じ
記憶することを知らぬ
移動するか,堆積するか

変化し,変転し,

漂い

吹き上げられ

吹き飛ばされ


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