「寒空考」


無数の消防の
音の向こうにある
人の嘆きよ
遠く星空に跳ね来たり
ふるえる野猿の子の
目を見開くか
しかし
野猿は知らない
その音の源で
何が焼け焦げ
何が水浸しになり
何が消え去ったか
老婆は
ぎしぎしとたわむ
安アパートの廊下をはいずり
昼間にすれちがった
もう一人の老婆を探すが
名を呼べど答えは無く、
煙にむせつつ目を閉じかけた
まさにその時に
消防士により助けられる
しかし、
もう一人の老婆は見つからず
呆然と座り込むその目は
ふるえる野猿の子の
それと同じ
風は
声にならない老婆の悲鳴を
野猿の元に届けるか
野猿は
意識できない意識の底で
命のはかなさを知るか
全ては
一夜の邂逅でしかない
風吹きすさび
雪舞い始める

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