「山頭火をまねて」


棕櫚の記憶あり かつて画家だ詩人が集まりしこの場所に 棕櫚のみ記憶をとどめいる

漫画家の 一筆一筆 命引き出し

山頭火うらやまし しがらみなければ 借金もなし

ごく当たり前にいきているはず 節分の午後 寂し

口寒し つもり無きことを 言いし日の 鬱屈

何をしている 心に汗して踏ん張りし一日も 終わる

ふと己のいまだ幼き事に気がついて 胃が痛し

歯車の食い違いし音聞こえたが はるか前から聞こえていたらし

他人のいびきの気持ち良さげに聞こえる深夜列車 街はまだまだ起きている

支払いは明日にしよう 今さら一日延びたとて 言われる文句は同じ

歩きはじめた幼児のこけるがごとき 我の今のつまづき

烏の黒い目 我が朽ちし魂うつすか 愛おしき

懐かしき道を歩く今のはずかしき

人生の終焉を見し烏の瞳の黒ぐろとして

特急が一時間遅れるらしい それに何の意味あろうとホームをはねる雀 うらやまし

血圧をはかる 透明な血潮ははかれず ならば抱え込む

トンネルを抜けると山山山 霙模様に山濡らす

有馬富士の突き出し威容 まだ若芽の滲み囲めずにいる

冬枯れの田んぼに 黒き黒きゴッホのごとき魂が舞う 人の世の悲しい

また降りはじめた 霙の野にさまよう寒き魂 肩丸めて濡れそぼる

久々に女房に生活費渡す 女房の声明るい サマータイム思い出す

一年生き延びた もうよかろう

夜には いくつもの命を引きずって 朽ちていく 一個の身体なり

肉体の奏でる音 騒々しく 命にしがみつく

八幡様のお山を いのちの赤い月が照らす

なにがなんでも 生きて歩く山頭火うらやまし

十一歳の魂が逝った刹那に見た風景を 思い描いてみた

慌てて駆け込む阪神電車 阪急だったら待ってくれない 現代においては親切はどっちか

強風に散らされる胡麻か 海鳥の群れ

海鳥たちも無縁 我も無縁 吹き散らされながらも無縁仏に手を合わせ

せっかく寄って来た悪霊だの貧乏神だの むげに追い払うもしのびなく

袖擦り合うえにしに 嫌われ者の魂を癒すも功徳なり

光なり 生きる力も光なら 生き恥さらすも 悲哀を醸すも 光なり


<息子へ>

東京で 一人で歯をば 食いしばる 息子にかける 声のむなしさ

むずかしき 最高峰の 試験なれば 鉛筆折りて 叫びたきも道理

今日の日まで 一人で決めて 歩みおり 今日くらいは 親にもたよれ

自らに 仕掛けたハードル 高きゆえ 苦しみおりて 痛ましくもあり

大事なのは 乗り越えること のみでなく 挑み続け あきらめぬ事ぞ

折れるなら 心おきなく 折れるがよい 他人は知らぬ 我は理解す

折れた後 立ち上がる日が 訪れる その時にこそ 真価は光る

終えれども 結果の日まで 長き忍 眼差し高くして おびえるなかれ

社会とは 努力必ずしも 報われぬ その最前線に 身を置くか子よ

闘いの 全ては己に 降りかかる その痛みに耐え 己は育てり 




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