「夏休みの終わる時」

 

 

夏休みが終わる

子供達は山へ行くのに忙しい

 

夏休みが終わる

細いホームを電車が通過する

 

夏休みが終わる

かすかに水の流れる音

 

携帯にひり付くメールが大量に運び込まれる

飛行機雲が空をしわだらけにする

あなたの肌の水着の跡を小さな蝿取り蜘蛛がなぞる

― 何処かへ行ったの?

― いや,何処にも

青い目の少女にじっと見つめられて

夏休みの終りを知る

 

したたりおちる季節の変わり目の静けさよ

雑踏の中に立ち尽くす時

目の前に用意されたステージに上がりそこねた自分を知る

どこかで非常ベルの音

あなたに頬ずりする夢の後を追い

のろのろと立ち上がる僕の耳元で故郷の山からの風がささやく

夏休みが終わる,と

 

かつて歩いた細い山道の途中の

小枝の先に揺れていたのは,

今,僕の目の前にあるのと同じ夏の抜け殻だったのか

薄く,ふわりと頼りなく,手に取ると,

氷のように溶けて無くなった

― ごめんなさい,今いそがしいの,また後で

― うん,それじゃあ

消え入るような薄日の中

夏休みが終わる

 

プールの水が抜かれ

夏休みが終わる

 

電車の窓が開けられ,風が通り抜け

夏休みが終わる

 

疲れた心だけを残して

夏休みが終わる

 

そして,季節のドアが開かれる

 

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