「サンマというもの」

 

 

焼かれながら飛び去るもの,それがサンマだ

 

さんまでも,秋刀魚でもいいが,

僕には,サンマがしっくり来るのは,

漢字離れ世代の成せる技だろう

 

ともかく,

焼け焦げた肌から,白い身がはじけ,

アブラしたたり,やがて,

香ばしきもの,

手際よく身をほぐし,

ダイコンおろしなどを乗せ,

ゆずなどがあれば,さらによし

手首のスナップでショウユをスッと引き

一切れ,熱いうちにほおばると

海と,労働と,郷愁の味

 

かつて,母が,夫や子供の帰りを待ち

夕日を浴びながら七輪で焼いた味だ

かつて,炭火の味であったもの

今や,電子レンジで焦げ目まで入れた味

 

その間に

歴史は動き,

沢山の大砲が作られ,

月に足跡も記され,

小さな国々が独立した

独立できずに,血を流す国もある

歩きながら遠くの人と会話し,文通できる時代

キーボードから巨万の富が生まれる時代

電飾が街路樹を飾る時代に

それでも,サンマだけは,焼かれながら飛び去る

 

 

焼かれる事に,

特に異議を申し立てるでもない

したり顔で,魚類史を講釈するでもなく,

ただひたすらに,煙を出し,

ギラギラとアブラしたたらせながら

広大無辺の健忘世界へと,飛び去るのだ。

 

 

 

 

 

 

do_pi_can   ド・ピーカン  どぴーかん  さて、これから  詩  小説  エッセイ  メールマガジン