「千葉紀行」

 

 

 

古ぼけた電車に乗って,

千葉を這う。

 

右手に丘

 

かつて,八犬士がさまよったかも知れぬ丘の

ずっと向こうには,

たしかに九十九里があるはずで,

あのやわらかな積乱雲の下あたり,

太平洋を見渡せる浜の茶屋では,カキ氷に甘い蜜がかけられ,

トウモロコシが,香ばしく焼け上がっているのだろう。

さぞや,大勢の水着の女の子達が,

その前に群がっているだろう。

波が,脱毛した彼女らの足を,何気ない振りして,

洗っているだろう。

 

だが,僕は,

古ぼけた電車の中,

携帯で台風情報を見ながら

千葉を這っている。

 

台風は,高知の南に

相変わらず強い勢力を保って,

猛スピードで移動しているそうだが,

ずっと上,神様か宇宙飛行士のいるあたりからだと,

悠々と動いているように見えると,思う。

千葉を這う僕は,

どのように見えているのだろうか。

斜向かいの娘の

胸元から垣間見える下着の色に

気を取られているあたりまで

まさか見えてるわけは,あるまいが,

空から見た時の

さもしい自分の視線が気になったりもする。

 

ともあれ,

今日中に,台風と会わねばならなくて,

そのために,千葉を這っている。

 

土気と言う駅のホームで,

まだ,おだやかな風に白百合が揺れている。

斜向かいの娘は,ここで降りた。